「最後までビール!」
今の若い世代の方ならそれほどでもないかもしれませんが、私ら中高年の世代であれば、飲み仲間と連れだって飲み屋に入ったなら、
「とりあえずビール!」
と言うに決まったものです。まあこれは、特に暑い夏の日ならとにかくのどの渇きを潤すのが先で、酒の肴を何にするかなど考えるのは後回しという意味合いもありましょうが、
「まずはビールで軽くやって、それでも体がアルコールを欲するようであれば(たいがい欲するに決まっているとしたものですが……)、焼酎なりウィスキーなり強い酒を後で注文します」
という意味合いを多分に含むものです。 アルコール大国と言われるロシアでは、つい最近までビールはアルコール飲料ではなく、清涼飲料水に分類されていたという話を前章で取り上げましたが、その意味ではロシアほどではないにしても、日本も同類項というもの。あながちロシア人を呆れた国民だと笑えません。 これがビールの本場ドイツに行くとどうなるかといえば、
「とりあえずビール!」
と言うことは決してないというのです。ではどう言うかといえば、
「最後までビール!」
ドイツ人のビール好きをこれほど端的に表すことばはないでしょう。 何しろドイツには、一三五〇か所ものビール醸造所があるといわれ、そこで造られるビールの種類は、五千種にも上るということです。 5,000 ÷365=13.7 という計算になりますから、ドイツのビールをすべて制覇するには、毎日飲んだとして十三年半以上はかかるというわけです。
「恐ろしか国ばい……」
なぜか博多弁になってしまった理由は問わないでください。
「アメリカとロシアの禁酒事情」の章では、法律で酒の製造を禁じたアメリカに触れましたが、ドイツではビールに関して「ビール純粋令」(Reinheitsgebot)という法律があるのをご存じでしょうか。
なんと今から五百年前に「ビールは大麦、ホップ、水によってのみ造るべし」(後に酵母が追加)と、バイエルンで定められたそうで、以降ドイツ人は忠実にこの法律を頑なに守ってビールを造り続けてきたのです。食品関連の法令としては世界最古ということです。
「どえりゃ~国もあったもんだでぇ~……」
なぜか名古屋弁になってしまった理由も深く問わないでください。