【前回の記事を読む】【解説】「ウイルスは生命に含まれるの?」という質問が難題なワケ

3 細胞は生命体の基本単位なのか

(2)個体は細胞の連携プレーで生命が維持されている

多細胞生物は、その名のとおり細胞が多数集まって様々な役割を担う組織や器官を構成し統率されて各々の細胞がそれぞれ任務を行っております。つまり個々の細胞が生命体で、個体という細胞集団の命を支えているのです。

だが、個体の生命とは別に細胞には寿命があり、役目を終えると死滅して、絶えず新たな細胞に入れ替わる新陳代謝をしています。

この個体と細胞の関係は、あたかも社会の中で様々な職業の人々が連携してはたらき、社会が円滑に動いて国家が支えられているように、体内の多くの細胞がその任務に適応した機能をもって互いに連携し機能して生体を維持しているのです。

動物体では、この細胞集団を統率しコントロールするのが、脳や脊髄の中枢神経とその末梢神経からなる神経組織です。また、細胞が必要に応じて分泌するタンパク質のサイトカインがあり、組織や器官の細胞に情報を伝達する作用物質で生体応答を誘導します。さらに、内分泌系が分泌するホルモンは血液で必要な器官などに運ばれて生理機能を調整しているのです。

組織や器官の細胞には、傷を負ったり、病気にかかったりすると、それを感知して細胞どうしが傷ついた部分を修復したり、欠けた組織を再生する自然治癒力があります。このように、細胞どうしが互いに連携し協力し助け合うはたらきによって個体の生命が維持されているのです。

人体は、60兆個の細胞が組織や器官を構成しており、それぞれの細胞が様々な任務を担っています。

60兆の細胞すべてに、活動に必要な養分と酸素を届け老廃物を運び出してくれる赤血球や、細菌などの体内に侵入してくる異物に対抗し排除する防衛機能をもつ免疫系の白血球やリンパ球などは、それぞれが特殊機能をもつ独立した細胞で、人体という大きな生命体を支える重要な任務をつかさどっているのです。

細胞は、寿命を終えると絶えず新たな細胞に交代して、個体の生命が維持されているので、細胞の生命と個体の命は、国民の生命と国家の生存のような関係なのです。

だが、大災害で交通機関や物流などが止まると大事になるように、脳や心臓などの血管が梗塞して血液循環が滞ると、細胞に酸素や養分が供給されなくなり細胞が大量に死滅して、個体の生命が危ぶまれる事態に陥ります。

また、細菌やウイルスなどの病原体が襲ってきて免疫細胞の必死の防衛努力にもかかわらず体内の治癒力が追いつけずに細胞が大量に死滅させられると、個体が命をおとす結果になるのです。