海の絵
暫くして、
「そういえば、昨夜ベッドに入る前に明日行くかも知れない旅のことを想像しながら、
旅気分 満喫せよと 海沿ひの 鉄路を走る 特急列車
と、詠んだわ」ということを思い出した。
「そう、わたしが子供の頃から少しだけ成長して変わったことといえば、短歌というものに魅せられ、自己流に三十一文字を紡いでいることだけだわ」と、いま初めて気づいたような気がしていた。
JRは乗客の利便性を考えて時間設定をしているらしく、特急電車の停車する同じホームの向かい側には、すでに二輛編成の普通電車がドアを開いた状態で停車していた。美子は「待ち時間も少ないし、なんと便利なこと……」と思いながらスムーズに、その電車に乗り換えることが出来た。
普通電車の乗客は思いのほか少なく空席が多くあり、ふたり掛けの座席をひとり占めすることが出来たのは幸運であった。元々この座席の取り方が、美子は最も好きであった。なぜならば、知らない人と話すのが苦手なのに、傍に誰かが座っていると黙っているのは失礼だと思うし、その一方で、何か話しかけなければいけないような気がして、その人が降りるまで落ち着かないからであった。
しかし美子は、この人見知りの癖のような性格は絶対に直らないであろうことは、疾うに自覚していたが、それはそれでも良よ いのではないかと、半分は開き直って今日まで生きてきたような気がしていた。そんなことを思っているうちに、電車は目的の由良駅へ着いた。