【前回の記事を読む】「ただ末長く生きるのが良いのか?」老人ホームで過ごして見出した”答え”とは
長寿について
老い始めると、年ごとに「昨年出来ていたことが今年は出来ない、昨日出来たのに今日はダメ」と言うように、自分の意志ではどうにもならないことへの予感・不安が募ります。人は誰でも老いを避けることができないのだから、逆らわずに時に身を委ねるしかないのですが、自分の意志の力を信じてきた者には、これは辛い・情けないことに思えてくるし自尊心さえ傷つきます。
ここで潔く切り替えないと、これからが辛くなります。もう若くはないのです。季節が変わったのですから。年をとっても、いつまでも好奇心を生き生きさせておきたいし、「何故?」といつまでも頭をクエスチョンマークで一杯にしておき、頭だけは老いないように心掛けたいものです。世の中分からないことだらけですから。
「ジェロントロジーGerontology」=[老年学・加齢学」という学問分野があります。1世紀前にフランスの免疫学者であるメチニコフ博士が、長寿研究をそう名付けました。加齢に伴う高齢者の身体、心理、行動変容を研究し、その結果を統計学的に分析・分類してゆくと、高齢者とは一般に65歳以上を指し、65~74歳を前期高齢者(ヤングオールド)、75~84歳を中期高齢者(ミドルオールド)、85歳以上を後期高齢者「レイトオールド」と呼ぶことになっています。公的な手続きをするときに、必要になるかもしれない用語なので、覚えていても損はありません。
スウェーデンの老年学者ラーシュ・トーンスタㇺ博士は、すでに1980年代に「老年的超越」という概念を提唱しています。それによると90歳を超えると高齢者は、自己中心性が低下し、死の恐怖が減り、空間・時間を超越する傾向が見られます。その結果高い幸福感を感じると言います。人生100年時代、40歳代を超えると幸福度は上がり続け、90~100歳で老年的超越を迎えます。皆でそれを目指す社会を作ることができれば、超高齢化社会を迎える日本は、世界一幸福な国になれるのではないか?
(ある日の日経新聞・朝刊を参考にした)高齢化社会に未来があるとすれば、トーンスタㇺ博士の言うように「老年的超越」に達するまで、健康寿命を延ばすことにあるのかもしれません。ある90歳を少し超えられたご高齢のXさん、
「お父さんももういないし、心配なこともない。苦しくもないし、何もないのよ」
と安らかなお顔をされて、そっとお話ししてくれました。