【前回の記事を読む】看護における「ケア」と「ケアリング」の違いってなに?

看護ケア実践と倫理の関係について知る

〔ねらい〕

1.看護ケア実践について倫理の関わりを理解しましょう。

看護ケア実践に関わる倫理的概念についての学習では、現代医療の背景を理解した上で、医療の質という観点における価値観や判断基準の重要性を認識する。医学・医療の発展とともに患者主体のあり方が医療において実現されるようになり、医療職者に求められる職業倫理の必要性も高まった。それぞれの医療職は倫理綱領を公示しており、行動規範を成文化することで専門性の証としている。

ここでは、看護ケア実践が倫理と深く関わっていることを認識し、倫理的であることは看護ケア実践に影響を与えることであるかを考えられるようになることを目指す。

1.医療背景の変化と今後の保健医療のあり方

1)医療背景の変化と医療のあり方

医療の高度化、複雑化に伴い疾病構造は変化し医療者の対応のあり方も変化してきた。過去において医療を受けることは恩恵であり、患者の意向を中心とするよりも医師が最もいい治療を提供することが最善だとされていた。

また、「近代医学が患者で学び、患者で育てるという方法論を採用する限り、場所や時代を問わず『素材』となる患者は常に求められる」といわれるように(田代、p.8〜9、2011)、患者に治療を施し、その成果を評価することで次の患者への治療方法を決定していた。

これは、日本の明治初期から戦後の高度成長期に至るまで、大病院において“学用患者”という「無料で入院させる代わりに研究材料となることを承諾させた患者(砂原1988:9)」が存在していたし(田代、p.6、2011)、18世紀末のフランスにおいては施療院という治療費を払えない病人が治療を求めてやってくる場所があり、臨床教育の場として注目されるようになったという。

医学においては対象となる患者が必要で、これからも同様だが、インフォームド・コンセントが定着して以降、医療者の情報の提供と情報に基づく患者の意思決定は重要で、医療においての患者の意思尊重を実現することにつながっている。そのため、医療に関する情報を知り、専門用語を中心とした医療内容の理解が患者には求められる。

一方で、医療者は分かりやすい説明や意思決定に悩む患者に寄り添い支援を続けるために患者との信頼関係を築くことに配慮する。インフォームド・コンセントをはじめとした生命倫理学はアメリカにおいて研究倫理の問題から始まり、その後、日本においては1980年代の脳死・臓器移植に関する論争から2000年代に本格化した。生命倫理学が医療に浸透したことで、患者の権利への関心は高まり、患者と医療者との関係は対等で、患者には主体的な医療への参加を求められるようになった。

患者の疾患も生活習慣病が増加し高齢化も進行したため、“無病息災”から“一病息災”といった疾病を主体的に自己管理しながら日常生活を送り一生を過ごすことになる。