【前回の記事を読む】臨床に応用しやすい看護理論とは独自の視点で看護を試みること
第Ⅰ章 看護について知る
シスター・カリスタ・ロイのロイ看護適応モデル
ヒーサー・A・アンドリュースとシスター・カリスター・ロイによる“Essentials of the Roy AdaptationModel”(1986年)が出版された。ロイ適応モデルも他の看護理論と同様、人間、環境、健康、看護を構成要素としていた。
ロイの適応モデルでは、「看護の受け手を全体的適応システム」としてみており、システムとは「いくつかの部分が結合して一つのセットになった物であり、ある目的のために全体として機能し、かつ各部分は相互に依存しながら全体として機能する」と説明する。
システムは、インプット、コントロール、アウトプット、フィードバックの過程を持つ。適応レベルとは「インプットを構成するもう一つの要素」で、人間の適応レベルはたえず変動し、レベルの決定は3種類の刺激の協働効果によって決まる(ヒーサー・A・アンドリュース、シスター・カリスター・ロイ(松木他訳)、p.24、1997)。
「焦点刺激」「関連刺激」「残存刺激」で、「ある状況において人間が肯定的に反応できるかどうかの能力は、上に示した3種類の刺激が蓄積した結果によるといえる。人間の反応とは、インプットの刺激とその人の適応レベルが作用したものである」とされる。3つの刺激については、以下のような説明がある(巻田、p.144、2000)。
(1)焦点刺激:その人が直面している変化や刺激で、それに対してその人が適応反応を起こさなければならないもの、つまり行動を起こさせる直接の要因。
(2)関連刺激:焦点刺激によって誘導された刺激(焦点刺激以外の刺激)、あるいは現在の状況に影響していると確認できる、ほかのすべての刺激。
(3)残存刺激:いまの状況では測定不可能な信念や態度、経験など、行動に影響を与える要因だが、その効果については確証できないものをさす。
ロイの適応モデルでは、人間を「適応システム」としてみており、人間は環境との相互作用ができる物と規定し、対処の仕方(対処機制)については「調節機制」と「認知機制」の2つに分けている。2つについての説明は以下のとおりである(巻田、p.146、2000)。
(1)調節機制:人間を部分の総和でなく、全体として統合された固有の存在というロイの考え方から出発しており、神経学的・化学的(代謝機能のメカニズム)や内分泌的なプロセスをとおして、自動的に刺激に反応する仕方のこと
(2)認知機制:知覚、情報処理、学習、判断、情動などの複雑なプロセスをとおして刺激に反応する仕方のことそして、刺激が入力され、対処機能が働き、反応や行動が起こると考えられており、「行動様式」とよんでいる。
この行動様式は4つの様式を通じて現れる。4つとは「生理的機能」「自己概念」「役割機能」「相互依存」で、以下のように説明される(巻田、p.147、2000)。
(1)生理的機能:生理的活動を通じて現れる変化・反応
(2)自己概念:自分で自分のことをどう感じているのか、どう見ているか、どう思っているかにかかわる変化・反応
(3)役割機能:他者との関係のあり方・役割(親役割、子役割、教育者役割、学習者役割など)に表れる変化・反応
(4)相互依存:人と人との親密な関係、他者を愛し、尊敬し、その価値を認めると同時に、他者からの愛と、尊敬と価値観を受け入れる、といったことに関する変化・反応