2)『保健医療2035』にみる根本的な医療の課題
厚生労働省は20年後について「2035年、日本は健康先進国へ」という『保健医療2035提言書』を示した。これによると目標は「人々が世界最高水準の健康、医療を享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築し、我が国および世界の繁栄に貢献する」としている。
基本理念としては「新たなシステム構築・運営を進めていく上で基本とすべき価値観・判断基準」には3つが挙がっており、「公平・公正(フェアネス)」「自律に基づく連帯」「日本と世界の繁栄と共生」である。
そして、2035年までに必要な保健医療のパラダイムシフトとしては、以下の内容が示されていた。
保健医療が、住まい、地域づくり、働き方と調和しながら「社会システム」として機能するため、これまでの保健医療制度を規定してきた価値規範や原理、すなわち「パラダイム」を根本的に転換すべきである。
1.量の拡大から質の改善へ
2.インプット中心から患者にとっての価値中心へ
3.行政による規制から当事者による規律へ
4.キュア中心からケア中心へ
5.発散から統合へ
1から5についての説明として、「量から質へ」は質と効率の向上を絶え間なく目指す時代への転換だとされ、「患者の価値中心」はアウトカム等による管理や評価を行う時代への転換で、「当事者による規律」については、保健医療の当事者(患者、医療従事者、保険者、住民など)による自律的で主体的なルール作りを優先する時代への転換であった。
さらに、「ケア中心」は慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味を含めた健康を保つことを目指す時代への転換で、「統合」については、関係するサービスや専門職・制度間での価値やビジョンを共有した相互連携を重視し、多様化・複雑化する課題に対して切れ目のない対応をする時代への転換であった。
日本が健康先進国へ向けての課題を明らかにした物だが、質の改善、患者にとっての価値、ケア中心といった課題は現行の医療においても重要な課題である。