【前回の記事を読む】職場復帰した主婦が「もう保育士には戻れないかも」と思った驚きの理由
お姫様抱っこ
保育園には若い男性の保育士がいて、子供たちはこの先生が大好き。人気者。園庭で子供たちをお姫様抱っこしてクルクル回っていた。
「先生、私もやってよ」。もちろん冗談でね。
若いけど、おばさんの冗談にもノリが良く面白い先生で「尚子先生が死ぬ三日前くらいになればできるかも」なんて返してきた。
まあまあ、かなりの重量ですから、気持ち、よく分かりますよ。いつものように、笑って楽しんだ。これを笑い話としてパパに話した。
「ちょっと、待ってろ」ビールを飲む手を止めて立ち上がる。
「ちょっと、来てみ。俺が抱っこしてやるから」
「えっ~いいですよー」
パパは私よりかなり軽い。無理でしょう。どうしてもって言うから、しょうがないなぁと思って抱っこしてもらう。予想通り持ち上がらない。
「じゃ、おんぶしてやる」と、しゃがみ込んで、背中を向けた。
「もうヤダな」。
取りあえず乗ってみるか。立ち上がれない。
「だからいいって言ったでしょう」。
それでも気が済まないらしくギュッと抱きしめて持ち上げる。気持ーち、上がったかなで取りあえず終了、ちょっとした笑い話がとんでもないことになったと思った。普通ならこれで終わりなんだけど、パパはちょっと違う。
次の日「昨日は飲んでたからできなかった、今日はいけると思うからリベンジさせてくれ」。もーもー勘弁してくれ!
「本当に申し訳ございませんでした、馬鹿げたことを言ってしまいました、もう本当にやめてもらえますか、気持ちだけで十分なんで」と言う羽目になった。
何度思い出しても笑っちゃう。これが私のパパです。まだ、二人の子供が小学校の低学年の頃の話です。どうして今、私の傍にいないのだろうか。どこで私を見ていますか。あの日から眠ったままの時間を生きている。動き出さない私の時間をどうか動かしてください。