パパへ
ママより
五年目の春です。やっと少し書けるかなと思えてきた恨み言から始めようか、それとも楽しかったことからにしようか、どっちにしても苦しくなりそうで……手が止まる。
パパとのことを文字に起こす、出会った時からのことを考える、思い出そうとする頭の中で色んなことがグルグルと回り始める。一つに絞り込もうとすると、風の中で舞う花びらをつかもうとして、つかめない自分が見えてくる。まだできないのかな、ちょっと休憩。
パパ、今どこにいますか、この家にいますか、私の近くにいるのかな。時々、私のベッドに入ってきているでしょう。何となく分かるんだよね。でも、私の頭の中には、入ってこれない……そこだけは私の世界が保たれている、かな?
もしも、どうして、なんてことは、いまさら言っても仕方がないことだよね。パパがいないことが理解できない。分かっていることなのに、本当のところ頭と心がバラバラできちんとは受け止められてはいないと思う。
将太も雄太もね。パパは私が泣くと、すぐに可哀想に思って、何とかしようとしてくれたよね。情に弱いというか、優しいというか。なのに、私や子供たちに一生分かと思うくらい涙を流させて、これで良かったのですか、これがパパの思っていた結末でしたか。聞けるものなら聞いてみたい。
次々と言葉が浮かんでくる。答えてくれないと分かっていてもあふれてくる。こんなにも、あなたの家族は苦しんでいますよ、いつまで続くのか見当もつかない長いトンネルです。私は仕方ないけど雄太と将太には何とか抜け出してもらいたい。母親としての願いです。分かってくれるでしょう。
見ていたかと思いますが、将太は誰が見ても心配になるくらい憔悴しきっていたようです。雄太は私の前で一回も泣かなかった。私の姉は将太が後を追って死ぬんじゃないかって心配していたそうです。仲の良い友達には「今まで見たことがない将太の顔を見た」と言われました。
私はその時の将太の顔が思い出せません。何をしていたんだろうか、親なのに、自分よりも大事な二人の息子の気持ちに寄り添うことができなかった。そこに自分は、どんな気持ちでいたのかさえよく思い出せない。長い凍った時間でした。
何度も何度も記憶の中から押し寄せてくる。すべての記憶の中から、これだけがピックアップされたように。皆、苦しい、家族だけではなく係わった様々な人たちがそう感じた、感じてくれた。