異様な光景が目に写っていた。村の人々は年端もいかぬ一人の少女にひざまずき、彼女のため殉じようとしているのだ。その幼い少女は他の村人達と比べても明らかに雰囲気が違う。「サヤ様」と呼ばれる少女以外、村人の多くが継ぎ接ぎや泥汚れした農民の様相をしている。その中で、少女だけが真っ白な衣裳をまとって奇特にも身なりを整えられている感じだ。
衣服の至る所首―の周りや腕周り、スカートの縁などあらゆる箇所ーに施された輪飾りのような紋様が、少女の姿に宗教性を思わせ、更には胸元に大きすぎる赤い珠の首飾りが下げられている。周囲は呼ぶ「サヤ様」と。まるで崇められているようだーそう、エリサは思った。
地面に突き立てた剣は誰の手に取られることもなくエリサと村人の間に佇んだまま。エリサはサヤという名の少女をじっと瞳に映した。二つに編んだ麻色の頭髪、琥珀色の両眼は緩やかな弧を描いて余裕があり、額と頬に朱色でペイントがされている。額の方は〈目〉の形、両の頬には小さな三角形だ。やはり、ただの子どもではない……力を感じる。体はたしかに未発達な幼子だが、面つきに稚さがない。他の村人と比べてもたたずまいは超然としている。
彼女が出てきた時、場の空気が張りつめたように思えたのはサヤの凛とした姿勢から生じる怪異的な気配のせいだろう。空間を支配してしまうほどの強い精彩を少女は瞳に宿していた。二人が見つめ合ってどれほど経っただろう、数秒もなかったかもしれない、誰も口を開かず空白を犯すような時の流れをエリサは胸の隅で感じていた。風のそよぎが髪をさらっていく。
「……いかがしますか、サヤ様」
ふたたび場を動かしたのは自分に木剣を突きつけている背高い少年の呻くような声だった。彼も周りと身なりが違う。左の頬に翼のような朱色の塗装。サヤと類を同じくして白が基調の上衣に宗教的な施しが見え、袖は無く、裾は長い。そのため下衣はほぼ見えない。
「賢明なご判断を」