1章 まやかしの織姫と彦星
「てゆーか奏空って、二宮くんと中学同じだったっけ? 接点はなかったの?」
「……、星空を二人きりで眺めたことがある仲かも」
フミの問いに、奏空はぼそっと呟いた。
「え、星空を……眺めた仲!? それほんと!?」
前のめりで予想以上に食いついてくるちなみを、奏空は両手で制し、
「ごめん、言い方が悪かった。たいしたエピソードじゃないし」
事の次第を説明したら、ちなみはつまらなさそうに落胆する。
「あたしたち、会話した覚えがほとんどないんだよね。たぶん性格とか好みとか、いろいろ違うんだろうし。まあ、その……合わないんだと思う。あたしとは対照的だから」
たまに廊下ですれ違うときに目で追いかけると、知的で大人びた雰囲気を感じ取ってしまい、コンプレックスを覚えることもある。秀才で器用で、とりわけ苦労も顔に出さないような人。
「あ、それは言えてるかも。なんかさ、住む世界が違うっていうか。将来はいい大学に入って、一流の企業で働いてるのかなあ」
フミの発言に、奏空は肯定してしまった。
“住む世界が違う”という表現は、奏空たちが通う私立高校ではある意味事実で、難関大学への進学に特化した『Ⅰ類』コースと、部活動に特化した『Ⅱ類』コースで校舎が分けられているため、両コース間での生徒の交流はほとんどないのだ。