1章 まやかしの織姫と彦星

「で、『恋姫に告ぐ─、』から始まる願いを短冊に記すと、望みの恋が叶うっていう噂が広まったんだ。私も去年お願いしたところ、見事カレシをゲットできました~」

「自慢したかっただけじゃんっ」

「カレシができると世界が変わるよ~? なんか毎日が特別に見えるってカンジ?」

ちなみの言葉にフミもうなずき、

「うんうん。部活とかお互いに目標を決めてね。あいつもがんばってるんだから私もがんばらないと、って思えちゃうんだよ」

「ふーん、そうですか。そりゃあ素敵なことで」

どいつもこいつものろけやがって、と奏空は右の頬をぷっくり膨らませるも、

「でも恋姫のエピソードってさ、ロマンチックに思わせて全然そうじゃないよね。神様のお告げで引き裂かれる程度の恋だし。心から好きな相手なら、恋姫もまたくっつく努力をしないと」

三人でシェアしているフライドポテトを数本つまみ、口に放った彼女は得意げに口にする。

「はぁ、この子はもう……。捻くれずに少しは関心を持って……ってこら、さっきからポテト食べすぎ。太ってパフォーマンス落とすぞっ。今日は部活がないからなおさら!」

「だっておなか空くのガマンできないも~ん」

物欲しそうに奏空は手を伸ばすも、フミにポテトを取り上げられる。

ちなみは手を組み、一人でロマンチックな世界に浸り、「恋姫伝説もそうだけど、やっぱり七夕って素敵……。運命に負けずに逢うためがんばり続ける、あの織姫と彦星のようになれたら」

「はいはい、カレシくんとそんな関係になれるようにせいぜいがんばって」素っ気なくあしらった奏空に、ちなみは「なってみせますもーんっ」と反論した。

こうして盛り上がった女子高生たちは暗くなる前に帰宅した。分かれ道に差し掛かったところで「バイバイ、また明日」と、奏空は友達に手を振る。

「恋姫伝説、か……」

一人になってしばらく歩いた奏空は、商店街の道脇で吊される笹の前で足を止めた。色とりどりの短冊が、葉のように飾られている。