流行に噛りついているわけじゃないけど、奏空だって女子高生。テレビや雑誌、ネットなどのメディアで取り上げられている話題や、同級生の会話から相応の流行りは知っている。それは恋姫伝説だって例外ではない。電車でSNSに触れているとき、『天を映す鏡とされている、恋姫が住処にしているとも囁かれる湖─(しん)(えい)()に聖地巡礼する若者が年々増えている』というピックアップも目にしたばかりだ。

それも神映湖は県内の湖、情報は嫌でも目に入る。ではなぜ、ちなみとフミの前で恋姫伝説の知らない振りをしたかというと、

(実はあたしも恋姫にお願いしたばかりなんて、恥ずかしくて言えるわけないし)

正直、恋人にしたい! という男子はいない。けれどあの二人ののろけを毎日のように聞いていると、自分だけが取り残された気がして堪らないのだ。

(だからあたしもって、お願いしてみたんだけど……。こんなお願いでよかったのかな?)

笹の奥でこっそり吊るされている青色の短冊に、奏空はちらりと目をやった。恋姫に告ぐ─、並んでがんばり合える人とお近づきになれますように。

─それが奏空の記した願い事。

(あ~、誰かにこの短冊を見られたら……。特にちなみとフミ)

モヤモヤが胸をざわつかせたが、奏空は小刻みに頭を振った。短冊に願う恥より、恋人のいない恥のほうが勝るのだから。

けれど、恋が望むものかと言われれば─……。

「ううん……、まあいいや。とにかくみんなを驚かせてやるんだからっ」意気込んだ奏空は祈るように短冊の前で手を組み、そっと目をつむって、(どうか、どうか素敵な男の子とお近づきになれますように─……)

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