二〇〇五年九月二十三日
北村大輔が島洋子に会いに行った日の夜、高倉豊は市内の公園で江藤詩織と会っていた。むろん二十年前に岡島竜彦と江藤詩織がキスしていた公園ではない。花火会場で偶然彼女に会った日の別れ際に、高倉豊は自分の携帯電話の番号を書いたメモを、江藤詩織に渡していた。彼女からの連絡があったことはもちろん、江藤詩織の携帯電話の番号を手に入れられたこととで二重に嬉しかった。
「岡島君が犯人なんかな?」
江藤詩織が、中原純子の事件のことを気にしているのは明らかだった。
「それはない」
そのとき二人は、人一人分間を空けて、一つのベンチに腰掛けていた。彼女が何か言いたそうにしたので、高倉豊は彼女の横顔を見ながら言葉を待った。しかし江藤詩織は開き掛けた口を閉じてしまった。
「江藤が気に病むことやない」
重苦しい雰囲気になる前に、高倉豊が助け船を出したような形になった。彼としては、江藤詩織にはもう岡島竜彦のことは忘れて欲しかった。とは言え、最近二人は再会したばかりだったのだから、それを望むのは酷なのかも知れないとも彼は思う。
「違うの。違うの」
江藤詩織の肩が不規則に、小さく上下に動いていた。涙を堪えているのかも知れなかった。何が違うんだと高倉豊は思うだけで、江藤詩織を慰めてやることは出来なかった。本来なら彼女の悲しみを、少しでも和らげてあげられるような言葉を掛けるべきだったが、その術を彼は知らなかった。