一部事件発生と、幼なじみの刑事とお巡りさん
二〇〇五年八月
そもそも一人娘の結婚には、二人共反対だった。相手の男が人間的に気に入らなかったということではない。ただ単に娘の年齢が若過ぎたことが、その理由である。自分たちの祖母の時代ならともかく、今の時代に十八歳で結婚というのは、いかにも早過ぎる。成人式さえ迎えていないではないか。
それに娘は煩わしい仕事を放棄して、結婚に逃げ込もうとしているように、二人には思えた。元々希望していた就職先に受からずに、仕方なしに始めた仕事だと分かっていたからである。だから二人は、娘に対して一年待つように言った。若いときの恋愛など、ほんの一時盛り上がるだけで、直ぐにその恋の炎など、一気に消えてしまうことも珍しくないと、二人は経験的によく分かっていたからである。
だがここで問題だったのは、ひとみという名のこの娘が、純子の子供であったということだ。彼女は母親同様に、人の意見を受け入れるタイプの人間ではなかった。声高に自分の意見を主張し、常に自分の意見は正しいと思っている、純子の遺伝子をそっくりそのまま受け継いだようだった。そんな訳で中原夫妻の意見はことごとく無視され、ひとみは結婚した。
いやいやながら一人娘の結婚を承諾する際に、中原という姓を絶やさないために、婿養子になって欲しいという、こちら側の要望は、相手の男性に受け入れてもらえなかった。彼もひとみ同様、一人っ子だったからである。ひとみの結婚生活には直ぐに問題が生じた。
彼女が高校時代の友人と姫路まで買い物に出掛けて留守の間に、夫の友人が二人遊びに来て、酒を飲みつまみを食べたことが原因を作った。これはもちろんひとみの留守中に、夫の友人を家の中に招き入れるなということではない。ひとみには独特の個性があったが、偏執狂ということではないのだ。偏屈なところはあるにしても。彼女が問題にしたのは、自分が帰宅したときに、居間のテーブルやカーペットの上が、飲み食いしたもので散らかり放題になっていたことにあった。
そのとき夫の功太はテーブルのそばで眠り込んでいて、友人二人は既に帰っていた。ひとみは新婚間もない綺麗な部屋を、土足で踏みにじられたように感じて激高し、カーペットの上に転がっていた、飲み掛けの焼酎の瓶を拾い上げて夫に投げ付けた。強引に目覚めさせられた夫は、彼女が怒っているのは何となく分かったが、その原因が自分にあるとは夢にも思っていなかった。そこで村上功太は聞くことになった。
「何をそんなに怒っているんや」と。
「片付けや! 散らかして! だらしない!」