「応援席で、みんなのことを応援してね」

運動会当日、先生は私を呼んで言った。きっとこうなるだろうと、頭では分かっていた。そうならないでほしいと思っていた。ひとりぼっち。

「1年生入場!」

と言われると、みんなは私を置いて走っていく。空っぽになった応援席には、少し前から歩けるようになった玲人が遊びに来た。まだ1歳半の玲人は、応援席に私しか座っていないことなんて気にも留めていないようだ。

応援したところで、どうせみんなには聞こえない。飾りつけたペットボトルすら振る気にならなくて、玲人に話しかける。その後は、2年生と一緒に踊ったダンスも、チェッコリ玉入れも、よく覚えていない。つまらない運動会だったと、私は記憶を塗り潰した。

運動会が終わると、体育の授業もさらに活動的なものが増える。私が校庭の隅に座って見学している時間も増えていく。

「今日は、2チームに分かれてドッジボールをします」

「やったー!」

はあ、と思わずため息が出る。その2チームに、私は最初から含まれていない。いつものように列から抜けて、コートから少し離れた位置に腰を下ろす。でも、ここだとボールが飛んでくるかもしれない。そう思って後ろに下がると、先生とみんなの声は聞こえなくなった。

夏のプールは参加をしてもいいと、母と主治医の先生は言った。それでも潜ることはできないから、水の抵抗を足に感じながら歩くだけ。もし溺れてしまっても分かるようにと渡された帽子は紫色で、みんなが被っている青とほとんど変わらないように見える。

「もっと分かりやすいほうがいいんじゃないかなあ」

私の提案を聞いた母が連絡帳に書くと、来年からはピンク色の帽子を被ることになってしまった。やっぱり言わなければよかった。

入学と同時に入った学童クラブも、私の新しい環境。学校が終わったら学童クラブへ帰って、みんなでおやつを食べて、お迎えが来るまで自由に過ごす。学童クラブでの遊びは、保育園よりも激しい。1年生は上級生と比べて体も小さい分、ついていくのが精一杯だ。

そんな中で初めて、手術の跡のことについてみんなの前で話すことになった。保育園と違って、室内でボールを使ったり、力の強い上級生と遊ぶ時に、傷跡に強い刺激を受けないように気をつけなければいけない。そのためには、周りにも気を遣ってもらう必要がある。

「姫花ちゃん、自分で話す? 代わりにお話しようか?」

手術の跡のことを話したいと言った私に、指導員の先生はこう提案してくれた。確かに、上級生がたくさんいる前に立って何かを話すのは緊張する。けれど、いつも一緒に遊んでいるみんなに自分のことを話すのだから、自分で話したい、という気持ちの方が強い。

「自分で言える」

早速、その日のおやつの前に、話す時間をとってくれた。