また、早苗が40歳の時、腫瘍を摘出するために2週間入院することになったが、早苗は姉の道子の承諾もなく、家人に向かって退院後は姉の家で療養すると宣言した。姉の道子も、姉の自分に何の相談もなく、あんまり勝手ではないかという思いを持ちながらも、親代わりを自認しているので無碍に断れないでいた。
その結果、清美は自分の家族だけでなく、早苗の食事の世話もしなければならなくなった。早苗は気安く清美を使う。食事時ではない時に台所に現れ、要求する。
「ああ、おなかが減った。インスタントラーメンでいいから、作ってくれない」
清美は早苗が自分の娘達を用に使えないでいるのを知っている。従姉妹達は早苗の言うことを聞かないのだ。しかし、この叔母は、清美なら簡単に使えると思っている。清美は釈然としないものを感じながらもラーメンを美味しくなるように工夫しながら黙々と作る。
「いやぁ、おネギが糸のように細く切れていて綺麗ね。美味しいわ、卵も入っているし」
早苗は、やたら自分の娘・静香のことを自慢する。お勉強も出来るし、器量も良いしと。それを聞くと姉の道子は不愉快になり、同年齢の清美に当たり散らす。清美が涙を流して泣き出すまで、清美をなじり続けるのだ。公平に見て、器量は従姉妹の静香より清美の方が断然良かった。
父の栄介がなかなかの男前だから、栄介似の清美は近所でも器量良しで通っている。しかも品が良いとの評判だ。学校の成績については、従姉妹の静香は家事を全く手伝わないので、学業以外に、かなりの分量の家事をさせられている清美より多少良くても当然と言えば当然なのである。しかし、道子は、姪の静香より娘の清美が劣っていると言われているようで、姉としての面子が立たないのだ。その憤懣やる方なしの気持ちを、清美をなじることで解消しようとするのだ。
「どうして、この子は頭が悪いのかしらね。私に似ていたら、静香なんかに負けるはずはないのだから。誰に似たのかねぇ。本当に嫌だね。家事も出来て、お勉強も出来なきゃ一人前の高校生じゃないよ。……なんだい、その顔は? 不満そうだね。世間様じゃ、娘は優しいから、男の子より良いって言うけど、ウチは逆だね。ええ? 娘が母親の仕事を手伝うのは当たり前の務めだよ。それに不満を持つなんて、本当に心がけの悪い子だ。ああ、嫌だ、嫌だ」