始業式のチャイムが鳴って、担任の伊藤愛理先生が入ってきた。
「はーい、皆さん注目。最初に席を決めます。席順を机の上にテープで止めてあります。中学校ではアイウエオ順に座りますので、黒板に示した順番に自分の番号の席に着いてください。あれこれ言わないで、さっさとする」
伊藤先生は三十代のベテランで、優しい女教師のイメージからはほど遠く男勝りの印象である。
エリの席は壁際で、左隣は、山村可憐ちゃんだった。可憐ちゃんは、エリとは違う小学校から上がって来たので、エリは良く知らなかったが、クラスでも飛び抜けて背が高く細身で、エリとは全く対照的な体形をしていた。
エリの家は、中小企業メーカーの営業課長をしている父の徹、コンビニのパートに出ている母の春子、高校二年生の兄の翔、そして小学校四年生の妹のすみれの五人家族である。兄や妹は平均的な体格をしており、とくに目立った体つきではない。
エリは、幼児期に重症の熱病にかかり、その影響が残って、顔面神経に少し異常があって笑顔が引きつるのである。その上、遺伝子異常もあるらしくデブ、チビになっている。両親は、病気にしたことや直してやれなかったことを悔いており、何かと気を使って優しくしてくれる。だが、豚鼻で出っ歯で、とてもかわいいとは言えないエリは小学生の頃から同級生にからかわれたり、いたずらされたり、いじめにあったりしていた。
それでも、エリにとっては、変に同情されたり、哀れに思われたりするよりはいじめられた方が気楽に思えた。エリへのいじめは、所詮、身体的な特徴をあげつらうのが主で、エリの存在を否定しているものではなかったからである。