中学生活開始
一いじめられっ子のあだ名(ブデチの命名)
神山エリは、四月から千葉市立浜村中学一年生となった。一年四組の中学生活の始まりである。
昨日の入学式では、ひときわ小柄なエリが中学の制服を着るとダブダブで、
「エリ、服ばかりが目立ってるね」
と小学校以来の仲良しの佐藤愛菜ちゃんにまでからかわれてしまった。ところがエリは身長は低いが太っているため、Sサイズにすると胴回りがきつくて動けない。仕方なくMサイズにしているので、手の指先まで袖の中に隠れてしまうのである。スカートは、今にも引きずりそうなほど長く見える。
それでもエリは丈を詰めようとは思わない。エリの母、神山春子が
「エリちゃん、袖を詰めないと転んだ時に手が突けなくて危ないでしょ。直してあげようか」
と言ってくれたが、エリは、
「いいわよ。ちょっとまくっておくから。少しくらい大きい方が疲れないの」
と言って断った。
入学式翌日の始業式の今朝もブカブカの制服の袖をひらひらさせながら教室に入ったら、さっそく水島健一君にからかわれた。
「おい、ブスのエリ、袖までブスブス言うとるぞ。さっき遠くから見たらフンボルトペンギンが登校してきたのかと思ったぜ」
水島健一君はやはり小学校以来の同級生で、小学校五年生の頃からエリのことを「ブスのエリ」とか「ブス」としか呼ばなくなった。健一君の話を聞いて男子生徒数人が集まってきた。
「そんなブカブカの制服を着ていると、ますますデブに見えるぞ。デブのエリに改名したほうが良くないか」
健一君の仲間の田代広大君がまぜっ返す。広大君もエリと同じ小学校から中学に上がったが、小学校時代に同じクラスになったことはなく、顔を知っている程度で親しくはなかった。だが、健一君も広大君も小学校の頃から悪ガキグループで通っていた。
「改名するんなら、チビのエリというのも有力候補だぜ。クラス一のチビだから、一番正確に表しているんじゃないか」
同じく悪ガキグループの一人である鈴木連君がニヤニヤしながら発言する。
「おいおい、いい名前が出揃ったじゃないか。ブス、デブ、チビの三重苦かよ。生きてる価値はないよな。これからは、まとめてブスデブチビと呼ぶことにするかな」
リーダー格の健一君が主導権を握る。
「それじゃ長すぎるよ。頭文字をとってブデチと呼んだらどうだ」
と広大君が提案する。成績の良い広大君はいつもアイデアを思い付くのが早い。
「よーし、これからはエリをブデチと呼ぶことにする。皆いいな。おい、ブデチ、返事がないぞ。こういう時は、ハイ、つつがなくお受けします。素敵な名前をありがとうございますと言うんだよ」
健一君が宣言してケラケラと笑った。