エッセイ 2022.10.07 【エッセイ】兄は今でも少年のまま...「三月はつらい月」 花と木沓 【第2回】 おのちよ どんなにのろくても、春は必ずやってくる 画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。 先の見えない不安に寄り添う、物静かな北国からの風のたより。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 心に傷を持つ少女・ちよは、修道院で暮らすことに。教室に漂う牧草の香り、修道女たちのせせらぎのようなコーラス、響き渡る鐘の音…神様に見守られながら過ごす日々は、寂しくも温かく、ちよの心をほぐしていく。画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。※本記事は、おのちよ氏の書籍『花と木沓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。 二月二十七日 今朝別れた、なつかしい母上様 写真を拡大 この大切なお手紙と私とを乘せて、赤い馬橇(そり)は雪の石狩原野を走りつづけました。 写真を拡大 夕日が、その最后の輝きで、雪原をバラ色に染め上げた時、地平線にポツッと〟何か〝が、現われ、だんだんに近づいて、小さな橋になりました。質素な橋は、どこもすっかり白樺の枝や幹で作られていて左右の手摺の枝はPAX・DOMINEと文字のかたちに組まれています。それは、お母さん「主の平安」と云う意味なのです。これが、マリア院の入口でした。 写真を拡大 写真を拡大
小説 『曽我兄弟より熱を込めて』 【最終回】 坂口 螢火 用意した死に装束を、我が子に着せる。まだこんなに小さいのに、斬首だなんて…私が身代わりになって死にたい! 青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」声さえ別人のごとく裏返って、「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。「オオ――一萬、箱王」母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振…
小説 『人生の切り売り』 【第14回】 亀山 真一 彼は私をベッドに押し倒し、「いいんだよね?」と聞いた。頷くと、次のキスはもう少し深く求められ… 【前回の記事を読む】「席に着くなり上着を脱いだろ?」襟元の開いたシャツを指されて…全て見抜かれているような気がした。「覚えてないから言いますけど、よくそんな女と付き合ってましたね」「あすみちゃんは初めて俺を見つけてくれた人だから」「え?」「俺はいい人で安牌で基本的に友達コースなんだって」「……私、そんなこと言ったんですか?」「いや、君以外のいろんな人が」彼は自嘲気味に笑った。「あすみちゃんのマイ…