エッセイ 2022.10.07 【エッセイ】兄は今でも少年のまま...「三月はつらい月」 花と木沓 【第2回】 おのちよ どんなにのろくても、春は必ずやってくる 画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。 先の見えない不安に寄り添う、物静かな北国からの風のたより。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 心に傷を持つ少女・ちよは、修道院で暮らすことに。教室に漂う牧草の香り、修道女たちのせせらぎのようなコーラス、響き渡る鐘の音…神様に見守られながら過ごす日々は、寂しくも温かく、ちよの心をほぐしていく。画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。※本記事は、おのちよ氏の書籍『花と木沓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。 二月二十七日 今朝別れた、なつかしい母上様 写真を拡大 この大切なお手紙と私とを乘せて、赤い馬橇(そり)は雪の石狩原野を走りつづけました。 写真を拡大 夕日が、その最后の輝きで、雪原をバラ色に染め上げた時、地平線にポツッと〟何か〝が、現われ、だんだんに近づいて、小さな橋になりました。質素な橋は、どこもすっかり白樺の枝や幹で作られていて左右の手摺の枝はPAX・DOMINEと文字のかたちに組まれています。それは、お母さん「主の平安」と云う意味なのです。これが、マリア院の入口でした。 写真を拡大 写真を拡大
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『アキレウスの迷宮』 【新連載】 小池 文平 「妙な彫り物と関わったせいで、あやうく殺されかけたのだ。」…イラク戦争の翌年、ケニア最大のスラム探検ツアーで… ああ、この心という、実体なき国。目に見えぬ光景と耳を打つ静寂の、なんたる世界であることか。このおぼろげな記憶、漠とした夢想の数々。えも言われぬエッセンスの、なんたる集まりであることよ。そして、すべての秘めやかさはどうだ。声にならぬ独白と、未来を予見する助言の秘密の劇場。あらゆる気分や思い、神秘が棲む、見えざる館。失望と発見が集う、果てしない場所。私たち一人ひとりが意のままに問い、可能なかぎりを命…