エッセイ 2022.10.07 【エッセイ】兄は今でも少年のまま...「三月はつらい月」 花と木沓 【第2回】 おのちよ どんなにのろくても、春は必ずやってくる 画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。 先の見えない不安に寄り添う、物静かな北国からの風のたより。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 心に傷を持つ少女・ちよは、修道院で暮らすことに。教室に漂う牧草の香り、修道女たちのせせらぎのようなコーラス、響き渡る鐘の音…神様に見守られながら過ごす日々は、寂しくも温かく、ちよの心をほぐしていく。画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。※本記事は、おのちよ氏の書籍『花と木沓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。 二月二十七日 今朝別れた、なつかしい母上様 写真を拡大 この大切なお手紙と私とを乘せて、赤い馬橇(そり)は雪の石狩原野を走りつづけました。 写真を拡大 夕日が、その最后の輝きで、雪原をバラ色に染め上げた時、地平線にポツッと〟何か〝が、現われ、だんだんに近づいて、小さな橋になりました。質素な橋は、どこもすっかり白樺の枝や幹で作られていて左右の手摺の枝はPAX・DOMINEと文字のかたちに組まれています。それは、お母さん「主の平安」と云う意味なのです。これが、マリア院の入口でした。 写真を拡大 写真を拡大
小説 『家族の闘病記ピックアップ』 【第3回】 成田 たろう 3月上旬、がんの手術のため妻が入院。腫瘍が3カ月で約3倍の大きさに。全部取り切り、何も問題はないと思っていた、その時は。 【前回の記事を読む】「飲むのも、仕事のうち」その生活が一変!妻ががんになり、ほんの少しの時間でも今は妻と一緒にいたい…千恵のがんの手術で十日ほど入院することから、ご飯の炊き方と洗濯機の使い方だけは教えてもらった。「お米の研ぎ方は、一回目の水のすすぎは浸すだけ。その後、手のひらで揉むようにして、四回ほど洗って、はい、やってみて」私は一回目からしっかりお米を研いでいたので、よく叱られた。私は強情な性…
小説 『大王の密使』 【最終回】 都丸 幸泰 「火を噴いたと言い伝えのある山がある。地の果てだ」——禁じられた北への旅路。しかし、彼らはそれでも進む 【前回の記事を読む】「われらは、蝦夷の村に行く」──禁じられた北の果てを目指す旅路。大王の民が探し求める“火の山”とは法広の言葉で、老人はじっとその顔を見る。黙っている。法広も老人の顔を見つめたままだ。老剣も二人を見ている。烏丸は、落ち着きがない。「昔、火を噴いたと言い伝えのある山がある。それこそ、おまえの言う通り、地の果てだ」老人は重い口を開いた。「そういう言い伝えがある。昔のことだ」「それは…