【前回の記事を読む】「あなたの娘で良かったです」20代で嫁いだ娘が思い返す父母との記憶

掟

英語講師もした。小学生には英会話を、中学生には英語を教えた。

英語が苦手な中3の3人の生徒がいた。受動態がわからない。この子達には思い切り中1のbe動詞に戻った。私がどうしてこんな大胆なやり方ができたのか、怖さを知らない若さゆえか？

何本チョークを折ったかわからない。生徒達がやっとbe動詞を理解して3段活用を教えた。先生が頑張ってるから頑張らないと、とでも思ったのか。延長の授業が続いた。

何とかしてあの子達に理解して欲しい。子供は元々大好きなのとあの子達の性格と素直さが可愛かった。私の熱意はここに有り。

ある日、その子達が「先生！　取ったよ」と教室に入って来た。テストで皆が平均点以上を取ってきたのだ。そして結婚が決まった私に、彼らは私の家に遊びに来てペアのマグカップとお皿をプレゼントしてくれた。

「先生、泣かんと？」と言いながら、別れの時、いつまでも、バスの窓から手を振ってくれた。

実は先生もあなた達とは別れたくなかったよ。仕事を続けたいと思っていた時、掟のレールは当たり前に来た。働きたいという気持ちは、その掟を説得する程強くはなかった。

嫁いだ所は夜景の綺麗なところだった。知り合いが居る訳でも里帰りが楽な所でもない。初めて私は、その地の賑やかな通りを歩いた。その通りの左手、先には中通りがあった。私はネグリジェが欲しかった。私は舶来のものしか着た事がなかった。やっと探し当てた店の名は「ドリー」。

そのマネキンは、薄い藤色の寝巻きを着ていた。私は、何という地に嫁いでしまったのだろう。