環境
私は20代で他県に嫁いだ。夜景の美しいところだった。
何の迷いもなく嫁いだ私だった。
私は看板を背負っている事に気がつくのに、大した時間はかからなかった。
私は絶えず誰かに見られていた。私ともう一人の自分がいて、その自分が、一人歩きする事があった。自分の発言は興味本意で取られる。訂正すればするだけ墓穴を掘る事になり、自分らしく生活が出来ない。天真爛漫だったはずの私は、次第に神経を使い自分の置かれた立場を考える様になった。
元来、人はひと、自分は自分と一匹オオカミの私だったが、自分の存在が逐一取り沙汰されてしまう。私は環境にナーバスになり、どう振る舞っていいのかわからなくなってしまった。
開業医の父とは違い、夫は仕事で帰りは遅く大変な時程いない。私は高熱の娘を一人で深夜、病院に連れて行き、子育てを頑張っていた。私は、普通に生活をしているのに優雅に思われた。スーパーで買い物をしていると、後ろから「お料理するんですね」と言われ、市場で買い物をしていると後から「海老ば選びよったね」と言われた。私の前には、毎日ナイフとフォークが置かれているのだろうか。
本当の私の日常を理解してくれる人はいない。だから、友達もできなかった。外では何食わぬ顔でいる事が辛くなった。やがて外出しなくなり、病院のお世話になるようになった。薬を飲んでも一向に治る事はなかった。こっそり病院に行き、こっそり帰った。心が解放されないので、病気が治る筈はなかった。
夜も眠れない。眠れない冷たい雨の日に私はみゅうと出合った。