日常
「来週、アメリカの大統領が、来日するのか……」
父の弘がニュースを見て呟いた。
「えっ? なに?」
愛犬のチワワのちぃちゃんと、じゃれ合っていた妹の結子が聞いた。
「うん、アメリカのトム・クルーニー大統領が、来日するんだって」
「ふ~ん」
「結子は、知らないかもしれないけどな、トム大統領は、昔ハリウッドのスター俳優だったんだゾ!」
弘は、得意気に娘に言った。
「あ~それ知ってる。友達から聞いたことある!」
「トムさん、来日するの? トムさんも昔はカッコよかったわよね! でも、お母さんは断然! アーモンド・シュワルチェネッガーがタイプだったけど!」
妻の真輝子が台所からやってくると、この話題に、食いついてきた。
「今じゃ、もうあれだけど……、昔は凄かったのよ! 筋肉ムッキムキで!」
真輝子が、それは嬉しそうな表情で言った。
「それじゃ、お母さん、ガチガチの筋肉マッチョが好きだったの? お父さんとは、全くタイプ違うじゃん。でも、ムラッド・ピットが好きだって言ってたよね」
「ムラピもイイけど、やっぱり、シュワちゃんのあの筋肉には敵わないわヨ! あの筋肉で抱きしめられたらって思うと、今でもゾクゾクしちゃうわよね……」
真輝子の表情は、ちょっと恍惚としていた。
「そっ、そうか、そうか……」
弘は、話題を変えた。
「しかし、カズオも頑張るよな。まだ現役なんだから。今年でもう70歳くらいになるのかな? 本当に、尊敬するよな。お父さんなんかより全然年上なのに」
弘は、スポーツニュースに映るカズオの映像を食い入るように見ながら言った。
「ホントにサッカーが好きなんだね? でも髪真っ白。ちょっと仙人みたいだよね。100歳くらいまで現役続けられるかなぁ? お父さんも負けてられないね!」
妹の結子が、父、弘に言った。
「キングカズオならやれるかもな。アーモンド・シュワルチェネッガーか……」
弘はそう呟くと、急に立ち上がり、ちょっとだけ身体を鍛えるような素振りをしてみせた。