訪問者
「いや~、君に会いたくてね。私はスミスだ。リチャード・スミス。よろしく」
そう言うと、その男は、ゴツゴツとした大きな手を差し出してきた。京子は、少し躊躇いながらも、細く柔らかい手を差し出した、するとその男は、京子の手を力強く握り締め、彼女の華奢な身体を包み込むようにハグしてきた。彼女は、それまでの人生で経験したことのない歓迎っぷりに、少々困惑した。
「話をいいかな? あっ、服部教授には話を通してある。少し、京子君のランチの時間が長くなるとね」
その男性に促され、京子は再びベンチに腰を掛けた。先程まで賑わっていた中庭も既に閑散としていた。京子は、中庭の隅にあるイチョウの木を見つめていた。そして、まだ、その初対面の男を警戒していた。その男は、おもむろに手に持っていた紙袋からチョコレートと砂糖がこれでもかとかけられたドーナツを京子に差し出した。
「どうだね、君も一つ。ウマいぞぉ!」
今、昼食を済ませたばかりの京子であったが、彼女は遠慮なく一つ貰った。
「いや、突然驚かせてすまん(笑)。 そりゃ、警戒もするはずだ。見ず知らずの外国人が現れて、いきなり声をかけられたんだからね。それで、早速で申し訳ないんだが、話というのは……単刀直入に言うと、君をスカウトしにきたんだよ」
「スカウト?」
京子は、ドーナツを口にくわえたまま動きが止まった。
「そうだ。君に我々のプロジェクトに参加して欲しいんだ。要するに、君の力を我々に、貸して欲しいんだヨ」
そう言うと、スミス氏は手に持っていたドーナツに一口かぶりついた。
「プロジェクト……?」
京子は、ドーナツを口にくわえたまま、スミス氏の顔を食い入るように覗き込んだ。京子は、まだ、話を呑み込めないでいた。