訪問者

「乗組員として、宇宙船に『アンドロイド』を乗せるメリットは、これらの問題を一気に解決できるということだ! まず、訓練や育成の期間が要らないということ。我々がフライトごとに、『アンドロイド』に必要なデータを入力するだけで良いわけだからね。

次に、アンドロイドには食事や水、酸素などが不要という点だよ。当然、一人分重量が浮くことになる。宇宙船にとっては重量は最もシビアな問題の一つなのは君もわかるよね。であるわけだから、火星などの長期間のフライトになればなるほど、効果を発揮するということにもなるわけだ。

そして、必然的にコスト削減に繋がるということになる。そうそう、それに少々、こき使ってもなんの問題もない。アンドロイドだからね。人間だと労働組合やらがうるさいからな。残業代やら、ケガの保障やら、特別手当てだとかがな……」

スミス氏は、再びベンチに腰を掛けた。

「あー、ウマいコーヒーが飲みたいな。やっぱり、チョコレートドーナツにはコーヒーだな。最高の組み合わせだものな。ハハッ」

そう言うと、口元が砂糖とチョコだらけのスミス氏は笑ってみせた。京子は、スミス氏に質問した。

「でも、私がスミスさんの依頼を受けたとして、これから何年もかけて、宇宙へ行くための訓練とかするんですか? そもそも、宇宙船に乗って私になにをしろと言うんでしょうか?

まさか! 地球に似た星を探すだとか! 何処かの星にエイリアンを探しに行くとか! 月にある宇宙人の秘密基地を調査するだとか! 地球に衝突しそうな巨大隕石を爆破して来いとか!」

スミス氏は、京子の矢継ぎ早の質問に一瞬眉をひそめたが、すぐにまた元の、にこやかな表情に戻った。相変わらず口の周りは、チョコと砂糖の粉まみれだったが……。そして、京子の問いに答えた。

「ハハッ、京子君、それは少々オーバーだな。実はね……君に『月』まで行ってきて欲しいんだ」

「『月』って、あの『月』ですか?」

「そうだ。宇宙船に乗って『月』へね。『月』まで行って、無事地球へ帰って来る! それを君に頼みたいんだよ! どうだ、簡単な話だろう?」

「はぁ……」