〈三ヶ月後〉
京の山々の紅葉が錦に染まり始めたある夜、文左衛門は祇園の一力茶屋で花魁、竜田川と遊ぶ。高島田の髷にきらびやかな櫛や簪を差し、絢爛豪華に飾り立てた竜田川の美しさに目を丸くする。故郷の山間を流れる竜田川の紅葉も斯くやと思われるほどである。
さらに文左衛門を驚かせたのは、竜田川に傅いている禿が、貴船で巡り合った天女のようなあの時の禿、鶴女であったこと。身を花街に置きながら、あの気高さは今もなお変わらない。このように素晴らしい禿が、他の男に抱かれるなんて、たとえ夢の中であろうとも許すわけにはいかない。何としても手中に収めたい。早速、茶屋の女将に身請け話を持ちかける。
「なぁ、いいやろ? 頼むわ……なっ!」
「あの娘こには、言い寄って来る男が、他にもおりますのや」
思わせぶりなことを匂わせ、文左衛門の嫉妬心を煽る海千山千の女将。
「なっ、いいやろ」
なおも、必死に食い下がる文左衛門。
「上玉には間違いおまへんが、まだ十六や。海の物とも山の物とも、わからへん禿なのでっせ」
と、はぐらかす女将。
「なっ、わての頼み、聞いてえな。わて、あの娘に惚れてしもうたんや」
件の禿、鶴女が他の男に抱かれることなど、文左衛門には何としても許せない。
「えらいご執心でございますこと。さすがは旦那様。お目が高うございますなー。実はあの娘、さる高貴なお方のご息女なのでございます。……」
と、なおも焦らされる。たいそうな身請け金をせしめられたが、鶴女を掌中の珠にした文左衛門。金のことなど全く意に介さない。