第三章 兄弟分
私とて花の応援団として男気を売りものにしている。おいそれと浅井のセリフを聞き捨てられない。
「おい浅井、一人で格好つけんな!」
「なに、こらっ!」
浅井が立った弾みで座っていた丸椅子が倒れ、周りの客の視線が集まった。
「まぁ、まぁ、血の気の多いお二人さん。さっき伊達さんが言うたやんけ。『三人、仲ようせい』って、そんでまた喧嘩やってしもたら、それこそどえらいことになるで。見てみぃ、ホルモンみな焦げてしもて炭やんけ」
進は心酔した伊達さんの言葉を用いて浅井を座らせた。
「ミジョン、あとビール三本とハラミとレバーとミノ、三人前ずつ持ってきて」
進は箸を持った手を上げて注文した。ミジョンはこの焼き肉屋の看板娘の名で、彼女目当てで来る客も少なくない。
「それで浅井、俺らは何をしたらええねん?」と、私は切り出した。
「そうやのう、呑み屋のおしぼりの新規注文か、金になりそうなおもろい話しでも拾ってくるぐらいかのぉ」
「そのおもろい話しちゅうのはなんやねん?」
「そやから、揉めごとの仲裁やら商売の口利きや、そんなこともわからんのんけ? 早い話しが、金儲けのネタや、ネタ! 大学で何を勉強しとるんじゃ」
「やかましいわ、ヤクザがえらそうに言うな。わかってもらいたかったらもっと具体的に言うてみい!」
浅井のほうが根負けし、
「金を要求するっちゅうのは今の時代ご法度や。すぐ手が後ろに回る。せやから、工事にはクレームやらなんやらと妨げになることがつきもんやんけ。もし支障になっとる問題があるとしたらそれを解決したる。その礼として、こっちが推す業者を使こうてもらう、強請にはならへんちゅうわけや」と、ヤクザのシノギについて話した。
「浅井、オマエとこが面倒みとる産廃業者はあんのけ?」
その説明を聞いてわたしは思うところがあり、浅井にそう訊ねた。
「あるもないも、ワシのおっさんの周りはそんなんばっかりや」
「例えて言うたら、残土やコンクリ、それに鉄筋なんかや」
「おっさんとこは屑鉄屋やけど、他もまとめてしょるんちゃうか」
「ほな、清子の親父、オマエがどついた義和のおっさんに頼めや」
「どういうこっちゃ、それ?」
一瞬、浅井は飲みかけたコップの手をとめた。
「俺のおっさん、溝口土建が下請けしとるゼネコンの監督に飲みにしょっちゅう誘われてコレ使わされとる」
私は指で輪を作って見せた。