第三章 兄弟分
「それそうと野村、満に会うたらまたやろと伝えといてくれ。ワシとアイツはガキのころからのダチやし、親父同士も戦友であの家とは親戚付き合いなんじゃ」
進と私は呆気にとられ、伊達さんが何を言ったのか理解できずに顔を見合わせた。
「こないだ、満と足代の焼き鳥屋で飲んどるときに、弟が今度の新団長らを連れて来たんで一緒に飲んだらオマエの話が出てや、なんやオマエ満の身内やて」
「えぇ? なんやそれ、そのこと早よう言うてぇなー」
私はそう呟き、一気に体中の力が抜けた。
「おぉーい、客人のお帰りや」
伊達さんは嫌味な笑いを見せながら声を上げると、奥から若い衆が玄関口に並んで私たちを送り出した。扉が閉められると進と私は思わず小走りになっている。ふと後ろを見ると浅井も同じようについてくる。
「なんでオマエも走って来んねん?」
路地の角を曲がったところで私が浅井に聞くと、
「オマエらが走るよって、つられて」
苦笑して言う浅井を見て私が笑うと、進も浅井の肩を叩きながら笑った。汗が冷え、冷汗にまた汗、屋外の熱気で普通でも重い学ランがさらに重くなっていた。現金なもので緊張が解けると腹が鳴った。時計を見ると四時を過ぎている。
三人揃って絞られたことで、私は浅井に変な仲間意識が芽生えていた。何の因果でヤクザになったのかはわからないが可愛い顔をしている。案外いい奴かもしれない。そう思うと、私はここで別れがたい気になった。
「浅井、飯にでも食いに行こか?」
「そや、今、伊達さんにもろた金で行こ」
進が間髪を入れずに言った。
「なんでワシがオマエらと行かなあかんねん?」
「さっき、伊達さんに言われたやんけ。何かえ、その金をオマエぽっぽにないないするんけ?」
「やめんかい、進、もう揉めんな。さぁ、グタグタぬかさんと、浅井、後ろに乗れや」
「この車進のけ? オマエお坊ちゃんか? 生意気にこれサニークーペやないけ」
浅井は気がおさまらないのか、屋根をポンポン叩きながら言った。
「ええから黙って、早よ乗れ!」
私は助手席の背もたれを倒して、無理やり浅井を押し込んだ。
「進、金ちゃんとこに行こ」
「金ちゃんとこ?」
後ろから浅井が聞いた。
「同級生の婆さんがやっとるホルモン屋や。ごっつい美味いねんで」
そう言いながら進は車を爆音とともに急発進させて、鶴橋のホルモン屋に向かった。