あぁ、まったく。馬鹿であるな、己は。恋をするということは呪いに似ている。あの当時憧れたこの道も、愛を誓った彼女も、あの頃の気持ちはいつでも思い出すことができる。
彼女と生きる夢に、この心は縛られている。
愛している、そう囁いて彼女の顔を、己の舌で舐め上げる。ザラザラした舌の感触に慣れないのか、迷惑そうな顔でこちらを見返す女がおかしくて笑ってしまう。
「虎でもいい。私は、そのままのお前さんを愛そう」
女が己を抱いて、耳元で囁く。
涙が零れ落ちた。受け入れられたこと、愛されていること。その両方が己を感極まらせた。衝動のままに己は女を倒すとその上に圧し掛かり、その胸に顔を押し付けた。
「随分と甘えてくるじゃないか」
己の頭を撫でながら女が揶揄う。
「たまにはいいだろ」
女は返事の代わりに小さく笑った。
「しかし、これではせっかくのお洒落が台無しだな」
大地に組み伏され、泥のついた浴衣を眺めて女が残念そうにつぶやく。
「なに、すぐそこに湖がある」
洗っていけばいい、と女の胸に顔を擦り付けたまま、視線だけで先ほど己が自らを投影した湖を指す。
「お前さんは乙女心がわからないやつだな」
女が諦めたように笑みを浮かべる。
「お前以外の女は知らぬ」
「知る必要などない。こんなお前さんを愛せるのは、私だけだよ」
彼女が己の顔を掴み、唇をあてる。
その日、その森に棲む全ての生物が、嬉しそうな獣の咆哮を聞いたことだろう。