俳句・短歌 短歌 故郷 2022.10.16 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第126回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 雲間見え朝子供等の声がする 時折流る木立の車窓 相見え古都西安で紡ぐ愛 掛け替えの無い親交共に 見返りの友は笑顔で空港に 安らぎの愛再会誓う
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『標本室の男』 【第39回】 均埜 権兵衛 目の不自由な妹をカメラに収めていた男――一体何者なのか…ハンドルに齧りつくようにして男の後を尾行した 男の車は柏崎の方へ向かっていた。彼女はハンドルに齧りつくようにして後を尾行した。車を走らせているうちに少しずつ頭が冴えてきた。初めは目の前の男が変質者で、目の不自由な妹に狙いをつけたのではないかと疑った。妹は姉の自分が言うのも憚られたが、可愛らしい顔をしていた。だからそれは一見もっともなことに思われた。だがそれも変だった。妹が寄宿している養護学校から帰ってきたのは、つい二日前のことなのだ。それに…