京子が、横目でチラリと外の様子を窺うと、窓の外の景色が少しずつ変化していた。ついに機体が動き出し離陸の準備が始まったのだった。
京子は、両手でシートのひじ掛けを力一杯握ると、身体をシートに押しつけるようにして、全身を硬直させた。そこから、京子たちを乗せた宇宙船は、純白のボディーに太陽の光を反射させながら、滑走路を一気に加速するとフワリと浮き上がり、そのまま大空に向かって、猛スピードで突き進んで行った。その彼女たちを乗せた宇宙船が飛び出した先には、雲一つない大空が広がっていた。
宇宙船が滑走路から離陸すると、船内の乗組員たちの気分は最高潮に達し、船内にドッと歓声が湧いた。「イェーイ!フォー!オーマイガー!」各々が叫び声を上げ、船内は一層盛り上がっていた。
覚悟を決め、吹っ切れた京子も大声で、なにかを叫んでいた。「イェーイ!どうせ死ぬときゃ死ぬのよ~!それがどうしたっていうのよ!私を殺せるもんなら、殺してみなさいよ!私は、なにがあっても絶対死にましぇ~んだぁ!私には、家族や大勢の仲間が私を信じて見守っていてくれてるんだから!」
それまでの彼女からは想像できぬほど、肝が据わり勇ましい姿がそこにはあった。彼女の覚悟は、完全に揺るぎないものとなっていた。
そして、宇宙船は轟音と共に雲一つない真っ青な空へと、吸い込まれていった。
展望デッキでは、京子の家族が彼女の雄姿を見届けていた。「ねぇ、お父さん!」妹の結子が突然、父、弘に尋ねた。「お姉ちゃん、保険入ってたっけ?」「えっ?」父の弘は、ちょっと不意を突かれた。
「だって、海外とか行くときは常識でしょ?もし万が一、なにかあったときのためにって」「母さん、どうだっけ?」弘は、妻の真輝子に尋ねた。「宇宙旅行って、そういえば保険どうなのかしら?全く考えてなかったワ」
それまでの感傷から、いきなり、現実に引き戻された母の真輝子が、困ったように答えた。「今からじゃ、ダメかな?後でチョット保険会社に聞いてみるか。京子のことだから大丈夫だろうけど。万が一ってことがあるからな」
「そうね、そうしたほうがいいかしらね?」父と母そして妹はそう言うと、しばらく、宇宙船が消え去った空を見つめていた。