再会
自宅に着くと携帯メールに着信があった。彼からのメールだとすぐに分かった。メールアドレスが彼の好きだった曲の題名だからだ。
<件名>相原です
今日はありがとうございました。
<件名>タカナシです
こちらこそありがとうございました。
この37年間、心にあったモヤモヤが消えたような感じがします。
相原さんが昔のままで良かったです。
また、いつかお逢い出来るまでお互いに元気でいましょうね。
彼が昔のままで良かったというのは嘘だ。梅田駅前のビルで待ち合わせをしていた時の彼の印象は良くなかった。何か疲れているというか、憤りを感じているという風に見えた。でも、会話をしていると次第に緊張がほぐれたのか優しい眼差しになった。年齢を重ねても「眼」だけは昔のままだと気づいた。今の本当の彼はどれなのだろう。
第一印象は大切だ。食事中に話した内容はよく覚えていないが、元カレが元カノに再会したい、つまり彼が私に逢いたかった理由を聞いたことは覚えている。
「どうしてまた逢おうと思ったのか、次の選択肢から選んでくれる?
【1】お金に困っている金貸して~
【2】Hに困っているやらせて~
【3】ただ、何となく寂しいから~
【4】昔のことが懐かしいから~
私が考えたのはこの4つだけど、どれかしら」
【1】については完全に否定していた。現在の仕事は別の自営をしており、別段生活に困っている様子ではなかったが、それを確かめるすべもなく本当のところはどうなのだか分からない。彼は冗談で理由は【2】だと言った。男性の多くは、女性に対し下心な気持ちを持っている動物だから、まんざら嘘ではないだろう。
実のところ本人もよく分からず逢いたかったという単純な理由でうやむやになってしまった。もし、また彼と逢うことがあるのなら数年後とか共通の友人の葬式くらいだろう。それで良しとしよう、と自分に言い聞かせた。でもせっかくの再会をこのまま終わらせたくない、もう一度やり直したい、という本音を否定することは出来なかった。
彼には家庭がある。このままズルズルいけば不倫街道まっしぐらになるのも分かっている。頭で分かっていても彼から最初のショートメールが来た時から私の中では彼への想いが膨らみ始めていた。いや、でもちょっと冷静にならなくては、彼の再会理由が実のところ分かっていないではないか。ましてや彼がまた誘ってくれるかどうかも分からないのに、私一人で盛り上がってしまっている。