「そうなんでしょうか? そうだとしても、どうしてわかるんですか? そんなこと」
「身なりじゃよ、まあ、旦那さんは中の上程度だがな、ハハハ。私は常々人間を観察しているんじゃが、どうも身なりをよくみせようとする人は、今という『時とき』に満足していない人が多い。なにかをやりたいが、なにをしていいのかさえわからない。お金はあるけどなにに使っていいのかわからない。そこで、とりあえず自分の不甲斐なさを補うために、身なりを美しくみせ、他人の目を引きつけたいと思う人間が多い」
「なぜです?」
「なぜか? それは、そこから『事こと』が始まるのを期待しているのさ。要するに、刺激という欲望を求めている人間ほど身なりがいいのぉ。人と関わりたくない者は、わしのように汚い格好をすればいい」
「なぜ?」
「そうすれば人は寄ってこん。その逆じゃよ。格好よければ人は寄ってくる、という人間の短絡的な発想じゃ。同時に自分で自分を慰めているのよ」
「慰める?」
「高価な服や靴を身に着けて、さぞかし気分がいいだろうよ。そして人格が上がったと錯覚して、他人の足もと見て鼻で笑うんじゃ」
「……」
「ブランドで着飾る者は自分で自分をタッチ、タッチなんとか……してるんじゃ」
「タッチセラピー?」
「それじゃ」
「でも別にわるいことじゃないと思うけど」
「そんな必要があるのかのぉ、たかが人間じゃろ、人間は中身じゃろ。中身のある者は着飾ったりしないもんじゃ。めったにいないがのぉ」
「……」
「まぁ人間じゃから、しょうがないのぉ」
老婆の人をバカにする言葉の羅列を否定しようと考えるが、意外にも否定できる言葉が見つからず、純一は老婆の言葉に体の力が抜けた気がした。
「平凡な毎日かぁ。お婆さんの言ったとおり、最近は昨日のことが思い出せないことがある。生きている意味があるのかさえ、わからなくなることだってありますよ」
溜息まじりにかがみ込み、老婆の目に視線を合わせた。鼻はバカになり始めたのか、臭いに耐性がつき始めていた。
「旦那さん、寂しいことを言いますねぇ。そのうちいいことありますよ」
なんの根拠もない言葉に少しイラっとしたが、老婆の変わらぬ福々しい笑顔にそれも失せた。
純一は少し老婆をからかうが、「ほぉ、あなたのほうこそすごい。よく私が神通力をもっていることがわかりましたね」
冗談で言ったつもりが、想定外の返答に少し戸惑った。