【前回の記事を読む】朝から晩まで酒を飲む父の「一生で一回の親孝行」とは…
第一章 大自然の中で
三
困るくらいのお調子者で、大酒飲みの父を持った私は、大の勉強好きに育った。それは、私の生まれ持った気性なのか、教育熱心なお母さんのおかげか、それともお父さんの影響なのか、はたまた全てが混ざり合った結果なのかは分からない。けれど、一つ明白なことは、子供は親に口うるさく言われたことに対して、激しく反発心を燃えたぎらせるということだ。お父さんは、蜂の巣の一件でも分かるように、頑固者で自分が正しいと思ったことは絶対に曲げない節があった。そして、一度それに反することを目にすると、逐一、真正面から否定してきた。
「バナナなんか食うな! みかんを食え!」
「パンなんか食うな! 米を食え!」
「スナック菓子なんか食うな! おやつには芋を使え!」
私は、みかんも米も芋も好きだったし、家でそれらを作っていることを知っていたから、お父さんの主張も一理あると考えないでもなかったが、バナナやパンやスナック菓子も食べたかったから、そう怒鳴られることが煩わしくて仕方なかった。また、兄弟で楽しく歌番組を見ていると、必ずと言っていいほど、「今の子の歌は、ひとっちゃ心に残らん。歌はやっぱり昔のがええなあ」とブツブツ言ってくることも、疎ましく感じていた。そして、その最たるものが、勉強に関してだった。
私は小学校に入学すると、前向きに勉強に取り組んだ。しかし、私が真剣に勉強机に向かっていると、お父さんは決まってそれを非難してきた。
「実里ねえやん、勉強なんかせんでええけん」
「そんなに勉強したって、なんちゃにならんのやけん」
「勉強なんか、もうやめえや」
と。もちろん、漢字を繰り返し書いたり、計算ドリルを延々としたり、面倒に感じる勉強だってあったが、お父さんへの強い反抗心から、私はますます勉強に打ち込むようになった。おかげ様で、概ね学校での成績は上々だった。