【前回の記事を読む】【小説】「死ぬ死ぬ詐欺」に騙されて私がバツ2になったワケ
胸騒ぎ
「近いうちに食事でも行きましょう。都合の良い日を教えてください。」
食事か。夜は何となく危険かもしれない。
昼間にしようか、アルコールはやめておこう。
どこへ行く?
何を着ていく?
ヘアサロンの予約をしようか、
いやいや、無駄なお金を使っても……。
いや、きっぱり断ろう。
何十年かぶりに会って、お互いの現実を見て嫌な気持ちになるより、今のままなら思い出を大切にしまっておける。
さて、どうやって断ろうか、
「タカナシです。昨日はご連絡をいただき、ありがとうございました。お会いしたい気持ちはありますが、恥ずかしいので、やはり遠慮しておきます。でも、相談ならいつでもどうぞ連絡してください。お力になれることがあれば、お手伝いしますね。」
「恥ずかしいなんて、私は小山君をはじめあらゆる手段を使って、何とか連絡を取りたい一心で君を探したんだ。」
小山君って誰だろう、本当にこの人は「相原徹也」だろうか。もしかしたら、昔の私たちのことを知っている誰かが面白半分でやっているのかもしれない。
メールだけでこの人が相原徹也だという証拠はないし、何か疑わしい。よし、明日にでもきちんと聞いてみよう。
(小山君は彼のクラスメートで情報通であるという事は後で分かった)
翌日の夜、私は彼にショートメールを送った。
「夜分にすみません、タカナシです。歳を取ると疑い深くなって、あなたが本当の相原さんか確認したくて、もしかしたら、新種のオレオレ詐欺かもしれないってね。最近は巧妙な手口も多いしね。」
私はあえて失礼な言い方をした。その反応を確認したかったからだ。
返信が来たのは一時間以上経ってからだった。
「なにわ朝日高校 クラブ活動振興委員長 初恋 初○ 茶道部茶室 これでどう? まだ疑う?(笑)」
……当たっている。
茶道部茶室って何だっただろう。
あっ、初○
これ、二人しか知らない秘密、
「相原徹也」本人だ。
私は思わず返信していた。
「今、電話しても大丈夫ですか?」
何を話したのか覚えていないが、彼の声は昔のままだった。
「電話、ありがとう。久々に聞いた声、嬉しかった。」
私も同じ気持ちだった。そして彼のペースに乗せられて会う約束をしてしまった。