僕の掃除場所が変わってから中澤さんはほとんど毎日、特別教室へやって来た。その瞬間がとてもしかった。
僕は会うたびに中澤さんの魅力に惹きつけられていった。そして掃除の時間が好きになった。掃除が終わると僕と中澤さんは意識的にタイミングを合わせて隣で手を洗っていた。中澤さんはそのたびに僕の顔をのぞき込んだ。
「私の目を見てよ」
中澤さんはいつもそう僕に言っていた。中澤さんのその言葉が嬉しくてわざと目を見ないこともあった。
彼女は口下手な僕に対して楽しそうにいろんなことを話してくれた。それなのに僕はいつも顔を真っ赤にさせて何も言わないで去っていった。
太鼓クラブで中澤さんの存在を知るようになってからは幸せな時間になった。
中澤さんは僕を中心に話を持ち上げようとしてくれた。一人だった僕の周りは六年生が集まり華やいだ。同級生はそんな僕を羨んで、ほんの少しだけ誇らしかった。
そして冬の終わりが近づいた。僕は中澤さんとの別れを意識し始めた。
僕は中澤さんを好きになることで自分のことを好きになっていった。ありのままを認めてもらえる喜びを彼女から学んだのだ。
僕は冬にもかかわらず半袖半ズボン、裸足姿だった。
「寒くないの?」
中澤さんは優しく声をかけてくれた。この格好は僕の男としての証だった。僕は寒いのもやせ我慢して頷いた。中澤さんはそれを見て笑っていた。
「すごいね」