1章 生まれてきたのは、心疾患の赤ちゃん
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2000年4月17日。
キミとの運命は、予告なく始まった。人も街もほとんどが眠りにつき、深い静けさで満ちている夜。十月十日と、何日かを過ごした小さな命が生まれてこようとしているのを、母は産科病院で待っていた。
「とりあえず様子を見て、まだ生まれなさそうだったら一旦帰ってね」
看護師さんに言われたように、病室に身を休める。一度家に帰って、生まれてくるのは朝かもしれない。そんな思いをつらぬくように、赤ちゃんの状態を診るために母のお腹につけられていた機械が突然、鳴いた。
看護師さんが手際よく音を止める。機械は一度静まって、けれどすぐにもう一度鳴き出した。今度は看護師さんの顔つきが変わり、担当医の先生も駆けつけてきた。
機械音が叫んでいたのは、胎児の心音低下だった。
「赤ちゃんが危ない。早く、お腹から出してあげないと」
「もう、だめかもしれない……」
午前2時。出産の準備をしていた妊婦さんと代わって分娩台に寝かされ、これでは間に合わないと今度はストレッチャーに乗せられて、母は手術室へと運ばれた。切迫感のある空気が平常心を奪っていく。何が起こっているのかもよく分からないまま、母の初めての出産は慌ただしく始まった。
どうか、生きて、生まれてきて。母は、それだけを必死に祈っていた。手術が始まってから数分後。あっという間に、私は生まれた。あと少し、何かが遅ければ、間に合わなかったかもしれない命を救われて。
健康体で生まれてくることは奇跡だ、とよく言う。
けれど本当は、生きて生まれてくることって、それだけで奇跡なのだ。担当医の先生が告げた言葉を、母は病棟のベッドでぐるぐると繰り返していた。
「赤ちゃんに心雑音があるので、朝になったら大きな病院へ搬送します」
シンザツオン。聞いたことのない言葉だった。まだ抱っこもできていないのに、大きな病院に連れて行かれる、というのはどういうことだろう。スマホですぐに調べるという選択肢は、当時にはまだ存在していなかった。夜が明けると、私は大きな小児病院へ運ばれていった。