ボーイミーツガール
ピピピピッ!
がしっ。
スヌーズ機能でしつこく鳴る目覚ましを止める。
時間を見ると、起きるにはまだ早い。もう少し寝よう。
この後、再びアラームが鳴ることはなかった......。
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不幸だー!!
どこのイマジンブ◯イカーだよ! って言葉が口癖のわたしは、この日たまたま時計の電池が切れたせいで、盛大に遅刻しそうになっている。
パンをくわえ、急いで家を出る。
急いで走れば、まだ間に合う!! 高い塀で囲まれる曲がり角を減速せずに曲がる。
突如現れた一回り大きな背中を辛うじて避けるが、バランスを崩し、その男の目の前で盛大に転んでしまった。男の人もこっちを見るや否や、気まずそうに目を逸らす。
うっわ、恥ずかしい。しまったー......。
パンくわえて走って男の人にぶつかる(当たってはいない)とかどこの乙女ゲーだよ。
「大丈夫か?」
こちらに近づき、手を差し伸べてくれる。
「いえ、あの、すみません。そちらこそ大丈夫ですか?」
「問題ない。とっさに避けてくれたおかげでな」
助けを借り、起き上がる。
「次からは気をつけることだな。あまり運が良くない方だから」
「ちょっと失礼じゃないですかね!?」
ふっと笑うと、再びこちらに背中を見せて去っていく。よく見れば、わたしが通う学校と同じ制服だ。おっといけない急がないと遅刻しちゃう!!
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「ーーーってことがあってさ!」
「あっはっは!その人はいきなり君の不運を見抜いたわけかー」
朝のことを話したら、思いっきり笑われてしまう。
会沢弘樹。
ーーーわたしより少し背が高く、おっとりとした性格。笑顔がよく似合う。わたしが密かに想いを寄せている人だ。
それに対して、朝に出会った人は、ツリ目で口がへの字。眉間には常に皺を寄せて、怒っているのでは、と勘違いしてしまいそうな人だった。話し方の感じといい軍人っぽい。頬に傷とかありそうだ。
............いやないけど。本物の軍人に会ったことないし。
「軍人っぽい」
弘樹の突然の一言に面食らう。わたしの心でも読んだのではと思ったが、すぐに言葉の真意を理解した。わたしの目の前に、件の男が立っている。
「いや、俺はただの学生なんだけどな」
「そうだろうけど。なんとなくイメージがね。もしかして、あの席の人?」
弘樹が指差す先に、とある空き席がある。そういえば、その席は誰が座っていたのか今まで知らなかった。男はそうだ、と。
「ツカサだ。剣崎仕佐」
「今まで姿が見えなかったのは?」
「先日にちょっとした怪我をしてな。しばらく休んでいた」
でも、とわたしは言う。
「それでも、その前からいなかったような?」
「もともと俺は目立っていなかったからな。俺がいたことなんて、誰も認識していないだろう」
「いや、でもさ。誰かしらは剣崎くんを見てるはずだよ」
ふっと笑う。その笑い方がすごくさまになっている。百戦錬磨の軍人のようだ。......わたしと同じ学生だけど。
ーーー誰も俺のことなんか覚えていないさ......。
剣崎くんの呟きが聞き取れず、「え?」と思わず聞き返すが、彼は二度と言葉を発することなく自分の席に座ってしまった。
弘樹と顔を見合わせる。どうやら弘樹の頭上にも、『?』マークが浮かんでいるようだ......。