たまにはいいことがあってもいいよね?
「はー、楽しかった!」
軽く伸びをする。今わたし達は休憩ということで、適当なカフェにいる。
「ねぇ次はどこ行く? どこ行く?」
「あれだけ歩き回ったのに、元気だね……」
まだ遊び足りないわたしとは裏腹に、弘樹はお疲れのようだ。顔色が悪い。外ももう夕暮れ。良い子はもう帰る時間帯だろう。
「仕方ないなぁ、今日はこれくらいで勘弁してやろう」
「どっかの中ボスかなんかなの!?」
失礼な。どうせなら、ラスボスがいい。その場合、セリフは『生きて帰れると思うなよ』だけど。
外を見る。駅ビルの上階にあるカフェからだと地元の街並みが一望できる。ふと、火災事故の跡地が目に入る。
そのわたしの視線の先をチラと見る弘樹。
「いつ見ても、凄まじいね……」
弘樹がポロリと漏らす。
「そうだね、弘樹が助けてくれなかったらと思うとゾッとするよ」
逃げ遅れ、迫り来る炎に囲まれ、閉じ込められたわたしは、弘樹がいなかったら絶対に助からなかっただろう。
今のわたしがこうして元気でいられるのは弘樹のおかげ。感謝してもしきれない。
外に向けていた目を弘樹に向ける。なんともいえない顔をしている。あのときのことを思い出しているのだろうか。
「いや、助けるもなにも、僕はなにもしてないよ」
「そんなことないよ。あの火災の中、わたしを外まで運んでくれたじゃん!」
「……え?」
驚いたような顔。なんだろう会話に違和感がある。微妙に噛み合っていないようだ。
「え、わたしを見つけて外に運んでくれたんだよね?」
「いや、雪菜がメールをくれて、駆けつけたんだけどそのときには、すでに救急隊員に保護されていたよ」
そうだっただろうか。ほとんど意識がなくてうろ覚えだが、確かあのとき弘樹が電話をしてくれて、すでに意識が朦朧としていたわたしは『助けて』とだけ言ったと思う。そのように記憶している。
よく思い出そうとすると、胸が締め付けられるように痛くなる。あのときの出来事が完全にトラウマになっているようだ。上手く呼吸ができない。苦しい。
だが、どんなに頑張ってもそのときのことを思い出すことはできなかった……。