【小説】ショッピングモールで大火災…死を覚悟した私の前に?
Gift~天使からの贈り物~
【第2回】
名奈瀬 優作
うら若き乙女なわたしは、ひょんなことからとあるクラスメイトと知り合いになる。
これはとある少年と少女のボーイミーツガール
ありきたりな出会いの物語のはずだった…………
※本記事は、名奈瀬優作氏の小説『Gift~天使からの贈り物~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
【前回の記事を読む】偶然ぶつかった男子。実はクラスメイトだったが、記憶がなく…
その男
それに気がつき、親猫がたったと剣崎くんの方へ向かう。そして、子猫を降ろそうとした、その腕に噛み付く。
「............いっ!」
突然の手に走る痛みと衝撃で、離した腕から逃げるように子猫が親猫の元へ。そして2匹の猫はあっという間にどこかへ消えていった。
「あーあ。助けた猫に嫌われちゃってー」
わたしだってその顔で近づかれたら、怖くて悲鳴をあげないこともない。彼もその顔つきのせいで今まで何度も損してきただろう。本当に報われない。だが、彼はそんなことは気にしていないようだ。もういない猫たちを見送るその表情はどこか嬉しそう。
「関係ないさ。無事ならそれで、いい。それだけでも、助けた意味がある」
「へぇ......意外といいやつ。顔は怖いけど」
「顔は余計だろ......」
「そう思うんなら、少しは笑ってみなよ」
「すまん、無理だ。表情を作るのは苦手なんだ」
ふーん、と。何気なくあたりを見渡すと、視界に《それ》が入る。店が立ち並ぶ中で不自然にポカンと空いた空間。もともとそこには数日前までショッピングモールがあった。
そこで大きな火災があったせいで、今となってはただの黒い焼け跡になってしまっている。運悪く、そこで買い物をしていたわたしは、突然の事故のせいで混乱した人々に押されて揉まれ、逃げ遅れてショッピングモールの中に閉じ込められてしまった。
閉じられた空間の中、火災のせいで次第に薄れていく空気。薄れる意識と押し寄せる絶望感。やがて死を覚悟したわたしを間一髪のところで弘樹が助けてくれた。意識がはっきりしていないあの中で、わたしを優しく抱き運んでくれた弘樹の顔を今でもずっと忘れない。あの顔に完全に惚れてしまった。