「凄まじいな......」
ぽつりと剣崎くんが呟く。
「そうだね......。しばらく学校休んでたんだよね?」
「ああ、怪我をしてな。あそこにたまたまいたんだ」
剣崎くんもか。学校から近いこのモールは、その日もうちの学生が何人か遊びに行っていた。
「怪我したって、まさか人助け?」
ニヤついた顔で、ついつい茶化してしまう。そのときのことが想像できてしまう。助けようと近づいて、怖がられて逃げられたのだろう。
「そうだな。たまたま迷い猫を見つけてな」
「なになに?また噛まれたの?」
「ふっ。なめるなよ。助けに行こうとして、転んで階段から落ちたたけだ」
「うっわ、だっさ!」
したり顔でそんなことを言われても......ねぇ。顔に似合わず、お茶目なようだ。表に出ないだけで、感情豊かなのかもしれない。
「てか、剣崎くんって部活とかしてないんだ」
「まあな。苦手なんだよそういうの」
「めっちゃ体育会系な見た目なのに!?」
強面で身体つきもいいのに......。剣道とかしてそう。竹刀で相手の面をカチ割る姿が目に浮かぶ。
「じゃあさ、買い物付き合ってよ!」
「む。『じゃあ』の使い方が違う気がするんだが」
「はいはい、細かいことはいいの!」
背中を押して、無理やりわたしの目的地に向かわせる。はじめはイヤイヤ言っていたが、諦めたのか次第にわたしと肩を並べて一緒に歩く。面倒見がいい兄貴みたいな人だと、そのときはなんとなくそう思った。
薄幸少女
不幸だーーー!!
なぜ冒頭から叫んでいるかって?目覚まし時計が仕事をしなかったせいで、遅刻しかけてるからだよ!!なんで、壊れるんだよ!!朝から全力疾走だよ!!情緒不安定かよ!!チキショー!!
パンすらかじる余裕がないわたしは、息を切らせながら道路を疾走する。陸上部で良かったなんてシミジミと思う。歩行者用信号が点滅する。急げば間に合う!交差点を横断したときに、プップー!!とクラクションを鳴らされる。突如わたしの前に現れる大型トラック。へ?え?なぜに!?突然の出来事に足がすくんで動けなくなる。