八草組の事務所のある布施は近鉄奈良線でこの小阪よりふた駅、大阪に向って西二キロほどの距離だ。進は黙ったまま車のアクセルを吹かし、国道二十四号線を西に走らせた。
「進は表で待っとってくれてもええで」
私はしばらく無口でいたが、進を思ってそう言った。
「チェッ、そんなわけにはいかんやろ」
不貞腐れた言い方でそう言った瞬間、進は口角をあげた。
「それでこそ進やんけ」
と、威勢を張って笑ってみても、ともに心細さは隠せない。
「正ちゃん、八草組の頭を知っとるんけ?」
進は前を見ながら真顔で聞いた。
「団の伊達先輩の一番上の兄貴や」
「ホンマにか?なんでそれ知っとるんや?」
「こないだの団の壮行会のあと伊達先輩と一緒やって、偶然に布施で会って飲みにつれて行ってもろたんや。進は消防団で先にいんでしもたときや」
進はフーッと太い息を吐いた。物事に頓着をしない進もさすがに安堵したのだろう。
「よっしゃ、行てこませ!」
進は気勢とも雄叫びともわからぬ大声を張り上げた。私も一緒に呼応した。マフラーの爆音とともに車内に入ってくる風で、べっとりと粘性を帯びた不快な汗はなんとか引いてきた。