【前回の記事を読む】【小説】愛する父を喪った少女は、復讐を胸に決意を固める
与えられたミッション
蟋蟀の鳴き声が木霊する、月光が、白く輝く夜だった。
吹き抜ける木枯らしが、落ち葉をカサカサと音を立てさせる。
夜風が、肌寒い。
深夜――。
暗闇に、落ち葉を踏み鳴らす音が混じっていた。
ゆっくりと。
その足音の主が、月明かりの中に現れる。
月光が、恭子の姿を浮かび上がらせた。
恭子は、官舎の裏手を歩いていた。
何か胸騒ぎがして、眠れない。
布団を抜け出し、夜風に当たっていると、益々眠気が吹き飛んでいく。
脚を止め、空を見上げた。
煌々と、青白い月が、黒い空を蒼く染め上げていた。
月の灯りが、恭子の顔を白く浮き上がらせる。
影が、濃い。
月明かりが届かぬ場所は、漆黒の空洞が広がっている様にも思えた。