目指す生徒会室は二階の一番端にあった。階段を一つ降りて二階の廊下をずんずん進む。ベランダ式の壁のない廊下からは、誰もいないグラウンドや正門が一望できた。帰宅していく傘は一つか、二つ。今この校舎にいる生徒は皆、本当にあの放送を聞いたんだ。じわじわと生徒会長という響きが、俺の中に染み渡っていく。パート練習をする吹奏楽部員、だべっている女子、筋トレ中の運動部員、新生徒会長の松岡葵のお通りだぞ、なんて。
廊下の突き当たりの重たい扉を開くとそこは……まだ生徒会室ではない。段ボールや使われていない机が積まれた物置のような、ほこりくさい廊下が左に続く。小さな窓からの光も、今日の雨では届かない。もっとも、晴れていたところでここはいつも薄暗い。道枝中の校舎は決して新しい方ではないけれど、それでもここだけ廃校したのか、と思うほどだ。
数歩進んで右に曲がり、右手にある戸の向こうの小さな部屋が、生徒会室だ。
がらりと戸を開けた。
「お、一番乗り! やっぱりあんたが会長になると思ってたよ」
セーラー服のスカーフの赤よりもぱっきりとした、元気な声。
前生徒会長、厳密には来週の後期始業式まで現生徒会長で三年生の西田先輩に出迎えられた。先月の運動会でも応援団長として台に上がり、ひとしきり舞っていた、全身祭りのような人だ。
「前生徒会役員から誰か残ってくれると安心だね」
そう、俺は前生徒会書記。この西田先輩含む四人の先輩の下、一年生の後期から二年生前期の今日まで丸一年活動した役員だ。でももう当選も確定したことだし、俺は会長ということでいいよね。
西田先輩のほっとした笑顔を見て、本当に当選してよかったと思った。落ちる気はしなかったけれど、万が一落ちていたら合わせる顔がなかった。一年間も生徒会活動をしたんだ。先輩たちから生徒会を引き継ぎ、役員というポジションを守り抜くのは、俺の義務みたいなものだ。書記の経験を生かすと公約で堂々と宣言しておいて、落選なんてできるか。それに生徒会長はモテ……いや、それはついでにそうなればいいって話だ。