【前回の記事を読む】雨模様の生徒会選挙の結果放送日「これほど好都合な天気があるものか」と考えるワケ
候補者たち
改めて、一年過ごした生徒会室を見る。
壁のヒビ、ぼやけた色の蛍光灯、ほこりを存分に吸ったカーテン。窓際の、先生が使っているようなでかい机と、タイピングに苦労させられたパソコン、プリンター。キャスター付きの椅子はいつも剥がれた床に引っかかる。
壁際のアルミ製の棚には、歴代の生徒会役員の功績。これらをそのまま引き継ぐんだ。
戸の開く音がした。西田先輩がすぐにその人物に声をかけた。
「中川! よかった、あんたも当選して」
俺もそう思ったよ、優哉! 西田先輩に肩をばしばしと叩かれた男は、メガネの奥のたれ目をいっそう垂れさせた。
成績もよくてリーダーシップもある中川優哉は、幼稚園の頃から切磋琢磨してきたライバルであり、親友。
そして俺と共に書記を務めた、生徒会仲間だ。尾形前副会長が、西田先輩とは正反対の落ち着いた声で優哉の肩に手を置いた。
「しかし中川くんが会計監査とは……。僕はてっきり、松岡くんと会長、副会長になるんだと思っていたよ」
「いいんです。僕は会計監査くらいがちょうどいい」
優哉のやつ、かっこつけやがって。俺も納得がいかない。
生徒会選挙は、二年生は各クラスから会長候補、会計候補一名ずつ、一年生は各クラスから書記候補が一名ずつ、自薦他薦問わず立候補する。
そして、選挙ののち会長選のトップが会長、次点が副会長、会計選のトップが会計、次点が会計監査となる。
一年生は上位二人が書記だ。今は各学年四クラスだから、候補者の半分は生徒会に入はいれるわけだが、なんだそんなもんか、ではない。生徒会長をとにかく目指していた俺にとって、この選挙は一大事だった。
つまり、優哉は会計選で二位だったということ。絶対当選すると思っていたから、他の候補者はノーマークだった。優哉に勝つなんて、どんなやつだよ。