第三章 兄弟分
浅井との出会いは三十年前の大学時代に遡る。
私は河内の地元高校の遊び仲間とともに、これといった将来の目標を持たないまま同市内にあるマンモス私大の近代学院大学の商学部に入学し、すでに三年生になっていた。
河内に来て八年余りの生活で、英才教育を是とする小学校時代の面影は微塵も残ってはいない。
昭和五十一年、長い夏休みも終わり、キャンパスのあるこの町に学生の姿が帰ってきた。
私はいつものように小阪駅前の雀荘で卓を囲んでいた。すると転校以来の親友で同じ応援団の進が血相を変えて走り込んできた。
「正ちゃん、えらいこっちゃ! オマエとこの義和のおっさん、この先の喫茶店の前で、地回りのチンピラとゴロまいとるやんけ! 早よ助けたらんとボコボコにされてまうど!」
学ランの前をはだけて、ハアハアと大きく肩で息をして私の傍に立った。額の汗が粒になり顎まで流れている。進の形相で私はおよその状況は把握できた。おっさんにはいい薬だと思いつつも、どうしたものかと逡巡した。
「正ちゃん、どないすんねん?」
「行かなしゃぁないやろなぁ」
進の催促に、自らに言い聞かせるように呟いて立った。私は壁に掛けていた学ランを鷲掴みにして、後ろで見ていた後輩に代打ちを頼んで、雀荘の硝子戸を突き開けて外へ出た。
商店街を行き交う人を掻き分けるようにして走りながら、私は学ランに袖を通し「進、それどこじゃ?」
と、聞いた。
「このすぐ先や、案内するよって早ようワシに着いて来いや!」
振り向きながら進は言った。