【前回の記事を読む】「警察はいい加減だ」証拠があるのに事実と違う判断をされ…
携帯エアリー
省吾は部屋に戻ったが落ち着かない。こんなことをしている間に警視庁では罪もない人間が殺人の容疑で明日の人生の絶望感を抱いているかもしれない。そう思うと居てもたってもいられなくなり、結局仕事に戻ることにした。
――俺は真実を知るため、エアリーを使って人の心を見抜くことが出来た。それは自分の能力ではない。本来の自分の能力は、無能で中途半端で情けないものだ。それをあたかも自分が調べ上げたものと刑事仲間に自慢したかったのかもしれない。真実を刑事仲間にわかってもらうには、エアリーの存在を知らせてみんなで冤罪をなくすべきではないのか?
省吾が部屋に入ると、いつものメンバーがいて、紀香を囲んで話が盛り上がっていた。
「やっぱりな、相田が最近、みょーーに携帯いじりながら偉そうにしてるのかわかったよ」
「そうだよな、これさえあれば事件なんてあっという間に解決出来るよ」
「やめてください。相田さんが知ったら、私、怒られちゃいますよ」
「だめだよ。もうみんなバレちゃったからさ」
そして、刑事の一人が振り向くと、そこに省吾がいたのを見て、
「ぬおーーーっ!」
みんな一斉に目をそらした。
刑事仲間がくだらない冗談を言ったあと、省吾が言った。
「この携帯エアリーは三百万もしたんです。それを僕一人で払うつもりだったんですが、みんなでお金を出し合って、捜査一課のものにしたら、僕の負担も少なくなりますよ」
「三百万か、そりゃあ高いな。でも、これさえあれば鬼に金棒だな」
そして課長が語りだした。
「相田君、もう一度捜査のやり直しをした方が良さそうだな」
「いいんですか?」
「冤罪で逮捕したらそっちの方がマスコミにどんな記事書かれるかわかんないからな」
「ありがとうございます!」
捜査は振出しに戻った。尾藤三郎とマテウス・メディロンはこれで少しは明るい兆しが見えて来るだろう。