【前回の記事を読む】「自殺したのか?」人探しで刑事たちが辿り着いた衝撃の場所

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通夜の日は少し早目に森川に到着した。通夜にはまだ時間があるので幸子の実家に寄った。そして、祖父の肩もみでもやろうと、声をかけた。

「爺ちゃん、肩もむよ」

「省吾、お前が肩もんでくれるなんて、珍しいこともあるもんだな」

「たまには爺ちゃん孝行しないとね」

「幸子はよく肩もんでくれたんだけど、幸子も上手だったよ。省吾も幸子に似たんだな」

「おふくろはいつも人の役に立とうとしてるから、俺は似てないよ」

「そうかもしれないな」

「おいおい、爺ちゃん」

「あのな、幸子は小学校も中学も、学級委員とか女生徒会長とか、いろいろやってな。登校拒否の子の家に毎日寄って、学校でも相手して、うちにまで連れてきて、学校が楽しくなるようにって勉強も教えてたんだ」

「そうなんだ」

「そうしたら、学年の先生がクラス替えの時『自分のクラスに欲しい子』って言うと、みんな真っ先に幸子の名前を挙げたそうだよ」

「そんな話、聞いたことないけどな」

「爺ちゃんもこの年だが、ボケちゃいないよ。それでな、イジメの問題とかクラスの中のイザコザとかを幸子が解決するからって、通信簿にもいつも褒め言葉が書いてあったんだ」

「へえーー、それは凄いね」

「お前の自慢の母親だ。誇りに思え!」

「爺ちゃんの自慢の娘だね」

省吾は嬉しかった。しかし、オレオレ詐欺の受け子たちのことを考えた。自分の母親が受け子の母親みたいにもっと違う母親だったらどうだろうかと。

通夜は午後六時半から行われた。農家の関係者や近所の人や親戚、幸子の兄姉の知り合いが何十人も来ていた。その中で一番中心になっていたのがやはり幸子だった。人当たりがよく、気が利くので、周りからも重宝されていたが、幸子の兄姉はお金の心配と誰かの粗探しばかりをしていた。

「佐川さんち、香典千円だってさ! だったら来なくてもいいのにな。お返しの方が高いじゃんかよ!」

「うわー、せこい!……ちょっと、あの人の服装って、私服じゃんよ。黒着てくればいいってもんじゃないよね」

幸子の兄や姉が本人に聞こえるようなボリュームで話し出す。こんな性格の人たちが農業なんてやるわけがない。土地を売ってお金だけもらおうって頭だろう。それに幸子がいいように利用されて、もらいが一番少なくなったり、畑仕事を押しつけられたりして、祖父の世話も幸子にさせるのだろう。

通夜は滞りなく終わり、次は葬儀。省吾はどうせ幸子が弔辞を言って、おじさんが簡単な挨拶して終わりだろうと思ったら案の定。幸子の感動の弔辞に皆が絶賛し、一部の人間が小声で幸子の兄や姉を批判した。