【前回の記事を読む】たとえいいように利用されても、人の役に立とうとする自慢の母親。彼女の抱く大きな夢とは…
携帯エアリー
一方、警視庁では大木の溺死が自殺なのか他殺なのかを調べようと、再び若宮の会社へ立ち寄っていた。省吾はもちろん抜きで。
「若宮さん、あなたが言っていた大木との知り合いとは、あなたではないですか?」
「違います」
《俺じゃないよ、他のやつだよ》
「では、誰ですか?」
「言えません」
《そんなこと言ったらそいつが捕まるだろ? 言えるわけないじゃないか》
どうやら若宮は犯人ではなさそうだ。「そいつ」が犯人か? それとも大木は自殺か? エアリーがあっても使い方がイマイチわからない。省吾がいないとどうもうまくいかない。刑事たちは結局何もわからないまま警視庁に帰って行った。
翌日、省吾が仕事に復帰した。そして、刑事から若宮の会社へ行ったことを聞いた。だが、どうも腑に落ちない。若宮はエアリーの存在やドッグのことまで知っている。その若宮は刑事がエアリーを持っていることをわかっていて、それに合わせて心の声をコントロールしていたのだろうか? ……だとしたら大木を殺したのは若宮か?
省吾は改めて紀香を連れて若宮と飲んだ。エアリーを持って。
「この前は同僚の刑事が来ただろ?」
「ああ、俺が大木を殺した疑いを持ってたみたいだな」
「ハハッ、お前は殺人犯か?」
「違うよ!」
「私もエアリー持ってたから間違いない。若宮さんは犯人じゃないわ」
「ところで、俺の婆ちゃんが死んじゃってさ、おふくろが婆ちゃんの家にずっといることになりそうなんだ」
「爺さんの面倒看るのか?」
「それもあるけど、農家だから畑とかやるそうだよ」
「お前はずっとここにいるんだろ?」
「そうだな。刑事の仕事はやめられないからな」
「若宮さんの実家はどこなの?」
「俺はずっと東京だよ」
「じゃあ、私と一緒ね」