【前回の記事を読む】女王の棺をついに発見!しかし、少女が悲鳴を上げた理由は…
第三章【判明】
「お父さん、がんばってー」
時おり、すり鉢の上から応援をする明日美の声が聞こえる。女王様の怒りをかわすための取りつくろいであろうか、お調子者の娘の声援にそのたびに吹き出してしまい力が入らない。このようにして、ついに柩の蓋は開いたのである。
スライドさせた柩の蓋に四つん這いになり佳津彦はポケットの中からライトを取り出して照らしてみると、
「おおー、これは凄い!」
思わず感嘆の声が漏れてしまっていた。すると隣で、明日美が、
「何これ、本当に凄い、凄すぎ!」
佳津彦が気づかぬ間に明日美が隣にいて、その明日美も気づかぬ間にレオがそのまた隣で、柩の中を覗き込んでいたのだ。レオに気づいた明日美がまた、
「まあレオ君、どこにいたのよ、心配しちゃったわよ」
の声でレオの存在にも気づき、
「おっお前たち、いつのまに……。それに明日美、お前、もう人骨を見ても平気なのか」
急に現れた一人と一匹に佳津彦は面食らってしまった。
「なんかすぐ適応できちゃうんだよねー、女王様、私に何かしたんじゃないの」
そういいながら平然と柩の中を見入る明日美とレオの横顔を、佳津彦は合点がいかず不思議そうに覗き込む。そんなことにはおかまいなしの、明日美とレオの視線の先にあるものは、初めて見る実物の女王の姿であった。
遺体の骨格から身長が高かったのが見て取れ、その両脇には銅鏡がびっしりと綺麗に並べてあり、しかも首元にも管玉や勾玉が恐ろしいほど沢山散らばっている。また頭部には冠とおぼしき金属片が確認できた。興奮は覚めやらぬ。
しかし何の因果であろうか、この墳墓の存在を隠せという伝承の当事者でさえなければ、考古学界を揺るがす大発見なのだが……。
特に注目すべきは、胸元にある大きな水晶の勾玉であり長さ10センチメートルは超えるであろう。しかも一点の曇りもなく、現代の技術で制作した物と遜色のない完成度の高さである。素材と大きさの違いはあるにしても、天皇家に伝わる八尺瓊勾玉も、こういう崇高な物なのかもしれないと想像する。
「これは何! これはどういうことぉ」
明日美が気づいて絶句した。
並べてある銅鏡すべてが三角縁神獣鏡で、それもざっと30枚はあるのだ。こんな景観は奈良県にある黒塚古墳でしか見た覚えがない。佳津彦は腰を据えて、つぶさに観察を続けていく。勾玉、管玉はヒスイにメノウ、そして水晶ならびにガラスと、ほとんどの素材が揃っているのだ。
頭部耳元には古代の高貴な女性が付けていた耳とうと呼ばれている耳飾りが確認でき、それが伝承を確信へと変えていった。これは間違いなく女王だ。ただ奇怪なのは足元にある青銅の塊なのだ。腐食してはいたもののどう見ても小型の銅鐸にしか見えないのだ。
そうだとすると前方後円墳からの出土例は知る限りでは皆無と言ってもいいだろう。それが事実とすれば驚天動地の大事件である。
「お父さん、私、復元した柩しか見たことがないんだけど何かが違うよね、綺麗すぎると思わない? なんかひっかかるんだよねー……」
明日美も首を傾げていた。